1.評価・処遇の決定というシビアな仕事

人事管理の一つとして、評価・処遇の決定という仕事があります。

これは、採用や教育といった人事の他の仕事からするとちょっと異なるシビアな側面があります。それは社員一人ひとりの生活に関わるお金に直結する問題だからです。

例えば昨今では、コロナ禍で大幅に業績悪化した企業などで「今期はボーナス払えません!」といったニュースがたくさんありました。

人事や経営の立場からすると「業績が良かったら出るけど、悪かったら出ない。ボーナスってそもそも、そういうものなんだけど…」といっても、社員からすると死活問題なわけです。特に日系企業では、ボーナスはいつも一定額もらえるのが当然という感覚が社員の中に根強く残っていたりするので、「ボーナスがないと住宅ローン払えないよ!どうするんだ!」といった不満がたくさん上がってくるのです。(本来はボーナスをあてにしたローンの返済などは辞めといたほうが良いし、ボーナス払いの設定額も高すぎないほうが絶対良いと思うのですが…)

こういったボーナスの額や基本給を決めるのが、評価・処遇の決定であり、すでに多くの組織では人事評価制度や報酬制度としてルール化されています。

2.「頑張った人に頑張った分、報いる」というフェアさ

報酬に直結する人事評価を考える時に、重要なのが「フェアマネジメント」です。

そもそも、皆の給与はどこから生まれるかというと、もちろんその会社の利益です。この利益から報酬原資(皆の給与としてプールされたお金)を出し、報酬原資を社員一人ひとりに振り分けていきます。

本来的には、経営者が社員一人ひとりの取り分を決めるのですが、組織が成長して人数が多くなればなるほど経営者一人で社員全員の働きぶりを評価することが厳しくなります。

そこで、経営者一人の目利きではなく、一定のルールに従って取り分を決めましょうとなったのが評価制度の発端です。

では、どういうルールで報酬の取り分を決めるか。ここが問題なわけです。

ルールを決める中で、最初に考えなければならないのは、「なんのためにこのルールを作るのか?」という目的ですね。

やはり一番重要な目的は、取り分に対する「フェアさ」を確保することかと思います。

「なんでオレよりアイツの方が、給与高いんだ」という不満は、裏を返せば「オレはこの組織で正当に評価されていない」と感じているということ。

誰にとっても完璧な評価ルールなど存在しない、と言われる一方で、実際に高い業績をあげている社員が上述のように感じて組織を離職してしまうのは避けなければいけないことです。だからこそ、「頑張った人に頑張った分、報いる」というのがフェアさの根幹だと思います。

そういった意味では、主観的に「オレは今期頑張った!」で評価するのではなく、頑張った度合いができるだけ客観的にわかるように、数値などで定量的に把握できるルールにする必要はありそうです。また評価をするのもされるのも同じ人間であることを考えると、そこには好き嫌いや相性の合う合わない、日ごろの関係値なども少なからず影響するでしょう。これを防ぐために、評価する人の目を増やすといったことも重要です。

3.  報い方は色々ある。その人に合ったフェアマネジメントを。

ただ、何でもお金だけで報いなくたって本来良いはずです。

報酬には、短期的のものと長期的なものの2つがあると思っています。

短期的な報酬は、給与です。もっといえば、その中でも比較的長期的なものは基本給(毎月の給与)で、逆にもっとも短期的なものがインセンティブやボーナスというものです。

対する長期的な報酬は、お金だけではありません。例えば、その人にとって嬉しい千載一遇のチャンスや機会を与えることかもしれません。

「業界で有名な●●さんと特別に会わせてあげる」「厳選された人だけで構成される特別プロジェクトにアサインさせる」などはすぐにはお金に直結しないかもしれません。しかし、リクルートの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」のように他の人が得られない機会を手にした人間は、その機会によってさらに成長し、結果的に短期的な報酬よりずっと高い報酬をもらえることになるかもしれない。そう考えると十分な報酬ではないでしょうか。

もちろん必ずしも、お金だけが唯一絶対の報酬ではありません。

その機会で得た、優秀な人たちとのネットワーク(人脈)や、社会的な知名度(その世界で有名になること)などの方が、本人にとって重要な報酬であるかもしれません。

人のモチベーションは、お金だけが誘因になるわけではありません。

そう考えると、評価ルールを決める際は、組織を構成する社員一人ひとりにとって何が一番重要な報酬かを考えることからスタートした方が良さそうです。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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