1.一人として同じ人間はいない

1.一人として同じ人間はいない

人事という仕事をしていると、社内外を問わず数えきれないほどの人と出会います。

通常、人と人との出会いにおいて、目の前の人を理解するための情報は、基本的に実際に会って話した時の印象や内容などが大部分を占めると思うのですが、人事はこれに加えて、その人のデータ化された準客観的なパーソナリティ情報なども見ることが多いでしょう。

このように、ある人を多面的に見る経験をたくさん積むと、人間に対する解像度が高まっていくと共に、改めてですが「一人として全く同じ人間はいないなあ」とつくづく感じます。

それは、人がオンリーワンの個性を持っているということなのですが、では個性はどんなものから構成させているかというと、①スキル(能力)と②パーソナリティ(性格)、③スタンス(志向・価値観)の3つからなると思います。

1つ目のスキルというのは、保有資格やこれまでの経験などからわかる「できること」の集合です。スキルは職務経歴書に真っ先に書かれているように顕在的で把握しやすいです。2つ目のパーソナリティというのは性格のことですが、性格とはより細かくいうと「●●のように思う傾向」のことです。最後のスタンスとは、何に重きを感じるか・価値を感じるかということで、その人の根っこを示すものだと思います。このスタンスというのは人の一番深いところにある部分ですので、普通の表面的な出会いの中では中々表出しないでしょう。通常は、胸襟と開いて話すような親友とだけ共有するものだと思います。

2.個性=スキル×パーソナリティ×スタンスの掛け算

この3つの側面の組み合わせで、その人の個性、つまりその人らしさというものが定義できると思うのですが、実際にはそんな簡単な話ではありません。

なぜならスキルの種類、パーソナリティの種類、スタンスの種類と、1つの側面の中にまた無数の種類があるからです。

例えばパーソナリティの側面を見て、「人の性格はどれくらいあるのか」というと、いまだにこれといった唯一無二の解は導き出されていません。『ビックファイブ』ではたった5種類に性格を分けていますが、オールポートという心理学者は約4,500個も性格の種類を出しています。

このようにパーソナリティ1つとっても、これだけの種類があるのに、そこにスキル、スタンスを掛け合わせたら…と考えると、やはり人間の個性は無限通りに近いのではないかと思うのです。

そして個性がこういった3側面の組み合わせだからこそ、例え全く同じスキルをもっていても、パーソナリティとスタンス次第で、スキルの発揮するところや発揮する仕方は変わるということ。また逆に、パーソナリティ的には似ている人同士でも、スキルによって成果の度合が異なるということを感じます。

例えば、パーソナリティとして、一人仕事を好み、むしろ周囲の協力を得ながら進めていくのが苦手、かつ人の意見に耳を傾けるよりも自分の意見を発信していきたい人が二人いたとします。一方がスキルのない新人、一方がスキルは高いベテランだとしたら、難易度が高い課題に対して新人は周囲に助けを求めることができず潰れてしまい、ベテランは周囲の力を借りなくともなんとか自力でこなせてしまうかもしれません(仮に周囲の力を借りる方が良かったとしても)。性格的には類似した二人ですが、スキルによって乗り越えられるか否かが決まってしまうケースです。

パーソナリティが同じでもスキル次第で成果が変わる。というのは考えれば至極当たり前のことなのですが、実はマネジメントを考える上で多くの方が見落としている場合があるように思います。よくある例が、「あいつは前向きで、やるとなったら一極集中して取り組むし、何より一人で黙々と進めるのが好きなタイプだから、あれこれ口を出さずにほっといたほうが良いだろう」と見立てた部下がいたとして、その部下が経験豊富で能力が十分な場合は細かな進捗管理は行わない方が良い一方、新人の時からそのマネジメントをされると難しい課題にあたった時に知らず知らずのうちに潰れている、なんてケースです。やはりスキルも加味してマネジメントを考えなければいけません。

3.スキルが同じでもパーソナリティの組み合わせ次第で成果が変わる

では、今度は逆のケースを考えてみましょう。

スキルとしては全く同じで、パーソナリティが違う二人のケースです。

両者同じくらいの知識や能力を持っていますが、一方は「こうすべき」というこだわりが強く、周囲に背中を見せる性格。もう一方は、むしろこだわりはなく、周りの意見を尊重して「いいじゃんいいじゃん」と背中を押す性格だとします。こういったパーソナリティの違いは、一緒に取り組む人間(上司や同僚、部下)のパーソナリティとの組み合わせ次第で、良くも悪くも成果に影響するでしょう。

例えば、この二人の部下を持つ上司の性格が、色々なことにチャレンジするのが好きで、興味関心が広いタイプの場合、こだわりが強い部下は、上司の拡散的な思考についていけないかもしれません。一方で周囲の意見を尊重する部下は、上司が引っ張ってくれる形でむしろやりやすいかもしれません。

人の個性は無限通りとも思えるほど無数あり、その個性の組み合わせもまた無限通り近くある。そしてその組み合わせ次第でアウトプット(成果や行動)が変わる。

この真理を追究するのが心理学の永遠のテーマの1つだと思いますし、僕ら人事という仕事の醍醐味かもしれません。

twitter facebook twitter facebook

安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

人気記事

  • 「人事は孤独である」ことの正体

  • 「人」について若造が語ることの重み

  • 僕たちの会社と仕事について

人と組織の可能性を
信じる世界を目指す
人材研究所では組織人事の問題解決を
通じて企業様の未来を応援しています。