1. 人事が感じる「リーダーシップ開発」への苦労と疲弊

どんな組織でも、皆の意見をまとめたり、モチベーションを高めたり、仕事をばんばん取ってきたり、高品質で納品し続けられたりするようなリーダーが1人いれば組織全体のパフォーマンスが大きく上がります。人材難といわれる昨今ですが、特定のスキル専門性を持ったスペシャリスト人材だけでなく、全方位的にリーダーシップを発揮できるような人材も各社足りていない現状ではないでしょうか。一人でも多くのリーダー人材を増やすことを経営の最重要課題として人事にミッションを与えている経営者の方々はたくさんいます。

しかし、多くの人事の方々はこのリーダーシップ開発に悪戦苦闘されていることと思います。

というのも、リーダーになりそうな人材を外部から採用するのも競争率が高く中々難しい。せっかく採用できたとしても、市場的に引く手あまたな中で、今度は定着という壁が立ちはだかります。そして何より困ってしまうことは、採用時は良さそうと感じた人材を、いざ現場にいれてみると思うようにリーダーシップを発揮してくれないこと。ともすれば、リーダーなるもの半場強引にでも周囲へ指示・命令していくほうが皆ついてくると勘違いして、周囲の顧みず、ただ組織に邪悪なカオスを生み出すだけの人も出てきます。経営陣が最終面接でその人にリーダーとしての期待感をこれでもかと伝えている場合、その勘違いはいっそう甚だしいものになっていきます。

このような苦労を繰り返していくうちに、「うちの会社でリーダーになる人材なんて、本当にいるのか」とさえ思えてきてしまいます。

2. 勝手に育つのと、育てるのは違う

次世代リーダー育成は毎年上位の課題として多くの企業から挙げられているようですが、リーダーの育成というものは、本当に難易度の高い仕事だと思います。

しかし、諦めるより前に、そもそもリーダーシップを「開発」するとはどういうことか考えてみましょう。

まずどんな人材でもそうですが、勝手にそう育った人材と、意図的にそう育てられた人材とに分かれます。この違いを最初に認識することが私は結構重要だと考えており、リーダーシップを「開発する」というのは、後者の方、つまり、意図的に育てることにあたります。

実はどんな組織においても、勝手に育つリーダーは少数ですが一定いると言われています。「パレートの法則」と呼ばれる2:8の原理、つまりどんな状態でも上位2割が残りの8割を支えているという原理が、組織のリーダー比率にも適用されているのかもしれません。

考えてみると、どんな組織やチームにおいても、決してリーダーをやりたいとは思っていなくとも仕方なく自然とリーダーポジションを担う人というのがいるものです。

こういう人がまさに勝手に育つリーダーなのでしょう。

しかし、この「パレートの法則」に身を任せているだけでは、リーダーとなる人の比率はずっと2割のままです。役職者など、実際に公式のリーダーポジションに就く人は組織構造の都合上全体の2割のままで良いのかもしませんが、ここでいうリーダーシップを開発すべき対象はメンバークラスにおいても適用されるはずです。

育てる、というのは勝手に育つ、とは明らかに異なり、意図的な行動です。

では、このリーダーを育てるために人事としては何ができるでしょうか?

3. リーダーを形作るのは元々の特性?実際の行動?

リーダー人材を意図的に育てるためにやることとして、まず社内のすでにリーダーとなっている人を挙げ、「勝手に育った組」と、「どちらかというと育てられた組」とに分けましょう。

この「どちらかというと育てられた組」をベンチマークして、“彼らは上司や会社がどんな取り組みをしたからリーダーになったのか“を考えます。これが自社においてのリーダーシップ開発手法のプロトタイプになる可能性が高いからです。

余談ですが、実はこの“リーダーは何をもってリーダーとなるのか”というテーマは、非常に古くから研究の的となってきました。

ちなみにリーダーシップに関するこれまでの研究結果では、リーダーに必要な普遍的な特性は存在しない、という一つの結論があります(最近になって性格特性がほんの少しだけリーダーに関係しているという研究結果もあります)。声が大きい人が必ずリーダーになるわけではないのですね。

そして別の揺るぎない結論として、実はリーダーに共通する行動様式というものが導き出されました。それは「タスクが前に進むよう働きかける(構造づくり)」と「集団における人間関係のメンテナンスをする(配慮)」という2軸です。つまり、冒頭に挙げた“リーダーなるもの半場強引にでも周囲へ指示・命令していくほうが皆ついてくる”というのはこの「配慮」ができていないという点から明らかにおかしいわけです。

ここまでみていくと、変わりにくい個人特性を採用時のジャッジ基準としてリーダー人材を選抜するのではなく、リーダーに共通する2つの行動をとる力があるか(過去にとってきたか)をジャッジ基準とすべきでしょう。

また、入社後の育成では、この2行動における力を育てていくような取り組みが有効そうです。もちろん人は経験から一番学ぶとも言われますので、自社のベンチマークした既存リーダー人材が経験してきたことを抽象化し、同じような経験を積ませるように配置(アサイン)を考える、というのも良いでしょう。

繰り返しになりますが、何より重要なのは「勝手に育った人」を目標にしてはいけない、ということです。「勝手に育った人」と「意図的に育てた人」を選別し、後者は誰なのかを社内で探すことから、人事の難題「リーダーシップ開発」解決の糸口を見つけてみるのはいかがでしょうか。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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