1.尖っているやつを採れ!というトレンド
人事の仕事の一つに、自社にどんな人材が必要なのかを洗い出し、ぶれない人事方針として設定するという大切な仕事があります。
この人事における「こういう人材が必要」という大方針を固めて、それに合わせて採用基準や、育成目標、そしてどんな行動を評価するかといった人事評価制度などを決めていくのですが、何よりもまず人事の皆様がすることは、現場に降りて行ったり、経営陣とディスカッションしたりして、「こういう人材が必要」というのを洗い出す作業です。
この時、最近よく耳にするのが、「尖っているやつが良い」という現場や経営陣からの声です。また逆に、「彼はいい人だけど丸いからつまらない」というネガティブな声もよく耳にします。
人事部の皆さんもこういった声に、悩まされることが多いのではないでしょうか。
私もその一人です。尖り人材だけをひたすら重視するトレンドには少し疑問を感じます。
このいわゆる「尖り信仰」とは一体なにものなのでしょうか。
2.人の性格は相対的なもの
おそらくこの「尖っているやつが良い」という言葉の意図としては、何か一芸ずば抜けて秀でている人が組織には必要だということでしょう。もちろん尖っている方が個性が際立っていて一緒に働く上で面白そう、というのもあると思います。また、お互いの強みを生かし、弱点を補完し合うようなドリームチームへの憧れもあるでしょう。
確かに、金太郎あめのように、皆同じような個性の集まりは、一見つまらなそうですし、皆の力が合わさった時のシナジー(相乗効果)もあまり高くないように思えます。
しかし、本当に丸い人は、それだけでつまらない、とるにたらない存在なのでしょうか。
私たちの仕事では、人の個性、つまりパーソナリティを定量化し、可視化することで組織や人材の分析をしています。
例えばこんな風に、ある性格のリストに基づいてその人物のパーソナリティを波形で見てみるのです。こうすることで、別々の人間でも1つ1つのパーソナリティを精緻に比較できるからです(AさんはBさんより楽観性がこれくらい高いけど、BさんはAさんより慎重性がこれくらい高い、など)。
こういった人の見方をすると、尖っている人材というのは、どこか1つのパーソナリティが高く、その分、他のパーソナリティが低いことを意味します。
ここで大切なのは、人の性格はその人が持つ様々なパーソナリティの特徴を相対化したものである、ということです。つまり、尖った人は、その特徴が他の特徴と比較して際立って高い、または低いから突出して見えているわけであって、丸い人には、その同じ特徴がまったくないわけではないのです。
例えば、上の人物は、「感情抑制傾向」が高いです。これはネガティブなことがあっても感情をあまり表に出さないクールさを表す傾向のことですが、この人が接していてすごくクールに見えるのは、その他の特徴が低いからです。
逆に「感情抑制傾向」が同じくらいあり、他の特徴も軒並み高い人がいたとしたら。この人もネガティブなことへの冷静さは一緒です。でもこの人は他の特徴も見えやすいので丸く見えます。
3.能力の高い丸い人材を見逃さないように
何が言いたいかというと、必ずしも尖っていれば良いわけではない、尖っているということは、他の特徴が相対的に低いということ。むしろ、丸くても、全体的に基礎能力が高いのであれば優秀であるし、そういった丸い人材を集めても、ドリームチームはできる、ということです。むしろ尖った人材よりも、個性の違いでぶつかりにくいため、おそらくスムーズにチームワークができます。
全員が何かしらの際立った強みを持つと同時に性格的にも尖っている「アベンジャーズ」はドリームチームの好例ですが、毎回散々揉めています(最後は団結して敵を倒しますが)。
つまり、それだけ尖り人材はマネジメントコストがかかるのです。
最後にカミングアウトすると、私もどちらかというと丸い人材だと思っています(基礎能力の話は置いておきます)。そもそも人事の方々は丸い方が多いように思います。今の状況や役割に合わせて、様々な立場の人すべてと円滑にコミュニケーションをとる必要があるからです。
このように人事本人が丸いからこそ、尖った人材がほしいという現場ニーズにはきちんと向き合いつつ、自分たちと同じ丸い人材の価値を見失わないように気を付けていきたいものです。
安藤健