1.目標管理制度(MBO)とは何か
目標管理制度とは、英語でManagement By Objectives(MBO)といい、経営学者であるピーター・ドラッカーが提唱した組織における目標管理制度のことを示します。個人とグループが目標を設定し、その達成度によって評価するというもので、項目としては「能力開発目標」「職務遂行目標」「業務改善目標」「業績目標」の4つに分類されています。
そしてこの人事評価の特徴は、組織側が目標を掲げるのではなく、社員自らがその目標を設定し、上司が個々に掲げた目標を組織目標と連動させながら支援し、一定期間の間で目標の達成度合いを評価する点にあります。
2.目標管理制度の3つのメリット
2-1.自律的な行動を引き出せる
まず、事前に明確な目標設定を行うことにどのような効果が見られるのか考えていきましょう。マネジャーとメンバーの間で仕事の方針や目線を一致させるためには、目標を明確化≒言語化しておくことが必要です。もしも事前にきちんとすり合された目標があれば、メンバーはマネジャーに都度確認を入れる頻度は少なくなりますし、マネジャーもメンバーの行動の一つひとつを管理する必要はなくなります。
たしかに目標設定をする際のコミュニケーションコストはかかるものの、日々のコミュニケーションコストの全体が下がるというわけです。さらに、メンバーが納得した状態で目標を掲げることができていれば、内発的動機付けに基づく自律的な行動をとることを可能にさせるため、事前に明確な目標管理を行うことは効果的だと言えるでしょう。
2-2.改善点の明示ができる
目標管理制度ではマネジャーとメンバーが半年から1年などの一定の期間で達成すべき目標を設定し、期末のフィードバック面談を通して、目標の到達度合いを確認し、何ができて何ができなかったのかを明らかにするというのが特徴です。
そもそも日本人はネガティブフィードバックが苦手であるという国民性があります。そのためマネジャーからメンバーに対して、日ごろから改善してもらいたい行動を伝えることはなかなか骨の折れることでしょう。
しかし目標管理制度のような定期的に話す「場」を利用することで、メンバーに対してネガティブフィードバックをしやすくなり、改善点の明示ができます。
そうすることで、メンバー自身の自己改善のサポートになり、仕事の目線合わせもできるので、一石二鳥と言えるでしょう。
2-3.納得感の向上
評価をする/されるうえで見落としてはいけないのは「納得感」です。
例えばマネジャーから「この事業を成功させるために頑張ろう」というざっくりとしたゴールを描かれ、その後「あなたの貢献度はこのくらいだからこの評価で報酬は○○円です」と言われたと想像してみてください。おそらく納得感は得られないのではないでしょうか。
このように、はじめに「何に対して頑張ろう」や「これを達成すれば評価される」という目標や評価項目がなければ、評価に対しての腹落ちしにくくなってしまいます。社員の納得感を高めるためには、あらかじめマネジャーとメンバーで目標のすり合わせを行っておくということが重要なのです。
3.目標管理制度の3つのデメリット
様々な効果を期待できる目標管理制度。しかし企業の置かれている状況次第では、目標管理制度が逆効果になってしまうこともあります。そこで問題点を3つお伝えします。
3-1.目標を設定しにくい
まず、変化の激しい市場を主としている企業、日々変化が生じるベンチャー、新規事業を手がける企業では、半年なり1年なりの期間の明確な目標を立てるということ自体が難しいことがあります。
それを無理に目標設定してしまうと、すでに環境が変化しており、期初の目標は時代遅れになってしまい価値がなくなってしまいます。その結果、当初立てていた目標に違和感を覚えながら期末を迎え、「本当にこの目標で評価していいのだろうか」ということになるのです。
また目標を設定する際の自由度が高いがゆえに、何を目標にすべきか判断に迷うことがあります。例えば「やったかどうか」という「行動」を目標にしてもよいですし、「できたかどうか」という「結果」を目標にしてもよい。売上も、育成も、何でも目標になりえます。そしてその難易度も人それぞれです。ですので、マネジャーが目標設定をする能力を持っていなければ、個々にあった適切な難易度で目標設定をすることは難易度が高いです。
3-2.手抜きをしてしまう危険性
目標管理制度の特徴はどれだけできたかという「達成度」で評価を行うという点です。
そのため達成したと分かった瞬間に安堵し、手を抜いてしまう危険性があります。例えば「4月から9月までの売上は○○円」という目標を期初に立てたとします。それがもしも8月に目標金額を上回っていたらどうでしょうか。評価されるのは、この目標に対してだけなのですから、下手をすると残りの1か月は何もしなくても高い評価が得られてしまいます。
このように目標管理制度は達成度で評価をするため、もっと上に行ってほしいけれども、評価がストップされるとブレーキがかかりそれ以上の行動をしなくなるかもしれないという恐れがあるのです。
3-3.報酬に反映するのであれば厳密なレベル調整が必要
さらに、多くの場合、現在の日本では目標管理制度は報酬に反映するための評価制度となっていますので、高い厳密性が求められます。
個々のメンバーにおいて、個別具体的なバラバラな目標を立て、さらにそのレベル感を合わせるというのはマネジャー同士でのすり合わせも入念に行わなければいけないため容易なことではありません。
さらに目標管理制度を運用して報酬を決定するのであれば、高い目標レベルを持つ人が高い報酬、低い目標レベルを持つ人が低い報酬ということになります。
しかし、現実には中途採用で前職での高い報酬を引きずって入社してきた人にいきなり高い目標設定をするのは厳しいのではないでしょうか。ただ、目標管理制度では、それをしないと不公平になってしまいます。新人や入って間もない中途入社の社員もできないとわかっていながら、高い目標を設定しなければいけません。
このように目標管理制度と評価報酬制度を一体的に運用を行う場合、育成目標を別に用意するなど、運用に工夫が必要です。
4.目標管理制度を導入する時に気を付けること
最後に目標管理制度を導入していくうえで、気をつけるポイントについてお伝えします。
これまでお伝えしてきたように、目標管理制度にはプラスな面とマイナスな面どちらもあります。ですので企業の置かれているビジネスの環境と、そしてどのように使うかという運用次第でプラスにもマイナスにもできるということなのかもしれません。
そのため、導入を検討している際には、この制度を使うマネージャーやメンバーの育成コストがかなりかかるという覚悟をしたうえで導入を決定することが重要です。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は目標管理制度とは何か、そして目標管理制度がもたらすプラスやマイナスの側面についてご紹介しました。
目標管理制度の導入を検討している人事担当者の方は、ぜひ今回の内容をご検討の材料にしていただければと思います。
参考資料
・「人事と採用のセオリー」ソシム 曽和利光
・東洋経済 気軽に始めて職場崩壊「危険な人事制度」2選
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