“これから”の採用担当者に向いている人の特徴

企業の未来を創る人材を獲得する採用活動。これを担っているのが採用担当者です。

 今回は、昨今、採用担当者の役割が変わりつつある中で、これからの採用担当者が担うべき役割と、それに対応するために求められる力はなにか、つまり「これからの採用担当者に向いている人はどんな人か?」ということについて、お話したいと思います。

 

1.採用担当者の役割は変わりつつある

採用担当者とは、広義には”自社の採用活動に携わっている人”のことを指しますが、一口に採用担当者といっても、担っている責任範囲とミッションには大きく幅があります。もちろん採用統括責任者と、現場の面接官では、採用活動に対する責任も役割も変わってくるでしょう。

しかし、現在は、経営合理化の名のもと、バックオフィス(管理系業務)のリソース削減も進み、一人で採用戦術の立案から、実際に手を動かしての採用活動(面接や面談の実施)まで担っている採用担当者の方も多いのではないでしょうか。中小企業・ベンチャー企業はもちろんのこと、大企業でもそういった傾向が見受けられます。特に地方企業ではこういった「一人採用担当者」が顕著です。

 こういった方々は、人事部長などから「今年はこの職種を何名採ってくるように」といった命令を受け、そのミッションを達成するために、「どんな人材をどのようにして採りに行くか」という採用戦術を立て、方針が承認されれば予算をとって、実際に自ら手を動かし採用活動を推進していきます。このような、まさに何足もわらじを履かなければならないのがこれからの採用担当者なのです。

 

2.これからの採用担当者に求められる3つの役割

これからの採用担当者の役割は大きく分けて以下3つの順に分かれます。

 採用活動を始める際、まず行うべきは、どんな人材を何名、どのように採用するか、という「採用戦術」の立案です。そして実際に採用活動を開始した後は、候補者が自社の求める人物像に合っているかどうかを見極める必要があります。

もちろん、せっかくいい人材を見極めることができても、最終的にその人が入社してくれなければ、採用成功とは言えません。候補者が自社に入社を決めてもらうために採用担当者は本人の志望度(入社動機)を最大限高めるよう努める必要があるのです。

 このように3つの役割を担っているのですが、実は、それぞれ必要な力が異なることに注意が必要です。

3. 採用戦術立案に必要な3つの力

まず初めに、採用戦術を立案するために必要な力ですが、以下3つに分けられます。

 

  • 過去のデータから課題を特定するためのデータ分析スキル
  • 採用要件をペルソナ化できる想像力
  • 採用KPIとの乖離を常にチェックするきめ細かさ

3-1.過去のデータから課題を特定するためのデータ分析スキル

現在では、「データベースドHR」という言葉もあるほど、人事領域におけるデータ活用が重要視されています。これは採用においても同様で、採用戦術を立てる際、自社に溜まった過去何年分かの選考履歴情報を分析して、どこかの歩留まり(参加率・合格率等)に課題がないか、ネックになっている箇所はないかを分析して、これを解決するように戦術を立てる必要があります。また歩留まり(%)の計算だけではなく、統計なども扱えるようになると、例えば面接官毎の評価傾向や、自社の内定に大きく影響している要因の特定など、戦術立案に活用することができる有効なデータを手に入れることができます。

3-2.採用要件をペルソナ化できる想像力

より効果的な採用戦術を立てるためには、採用要件をペルソナ化することもまた重要です。採用要件といえば、しばしば「○○力がある」「●●性が高い」などといった要素の集合で示されることがありますが、これらの要件をすべて持っている人物とは一体どんな人間なのかという、より全体論的なみずみずしい人物像にまで落とし込むことを「ペルソナ化」と言います。ペルソナ化をすることで、より求める人物像の志向に合った戦術を採ることができるのです。そのためには、要素の集合を全体としてみることのできる想像力が必要です。

3-3.採用KPIとの乖離を常にチェックするきめ細かさ

採用戦術策定の一つとして、採用予定人数を最終的に充足させるために、それぞれどの採用チャネルから何名母集団を形成し、各選考ステップでは何名合格していなければならないか、といった定量的な計画をシミュレーションしておく必要があります。これを「採用KPI」と呼びますが、実際に選考が始まると、この「採用KPI」が、採用活動がうまくいっているか否かを判断する指標となるのです。

 そのため、採用活動が始まった後は、できればデイリー、少なくともウィークリーで本来の採用KPIと実際の進捗がどれくらい乖離しているかをチェックしていなければなりません。

4. 候補者の見極めに必要な2つの力

次に、候補者の見極めに必要な力についてです。こちらは以下2つに分けられます。

 

  • 事実だけを追求するしつこさ
  • 人を表現する言葉をできるだけ多く知っている語彙力・表現力

4-1.事実だけを追求するしつこさ

採用面接の世界では「面接官は事実しか信じるな」としばしば言われます。

これは、すでに学術的な研究でも検証されている通り、これまで候補者が取り組んできた事実が最も、自社に入ってからのパフォーマンスの再現性を予測できるから、ということを意味しています。候補者の見極めというのは、言い換えるとすべてこのパフォーマンスの再現性を見ているのですが、面接で候補者が話す内容は、「やってきたこと」か「思っていること」の二択しかありません。そのうち、「思っていること」は本当に思っているだけかもしれず、ある種言うだけなら簡単なので、ここから再現性を正確に測ることはできないのです。

 そのため、見極めにおいて何より重要なのは、ひたすら「やってきたこと」、つまり事実だけを追求する姿勢、ある意味でのしつこさ、ということになります。

4-2.人を表現する言葉をできるだけ多く知っている語彙力・表現力

また、人を表現する言葉をどれだけ知っているかも非常に重要です。

複数回の選考を用意している場合、上位選考者への申し送りをする際や、集団面接時に同席する面接官と候補者の見立てをすり合わせする際に、「この候補者はどんな能力を持ち、どんな性格・価値観を持っているのか」をきちんと説明する責任があります。

例えば、目の前の候補者に対し、「頭が良い」という見立てをした時に、“1つの抽象的な概念から複数の具体例を思いつくことができるのか(具体化力)”、それとも“複数の具体的事実から本質的な抽象概念を導き出すことができるのか(抽象化力)”、これらは反対の力ですが、どちらも一般的に「頭が良い」と表現されます。日常生活の上では、このような力を一括りに「頭が良い」としても良いのですが、面接での見立て・見極めをする際は異なります。なぜなら仮に、自社の求める人物像が具体化力ではなく、抽象化力のある人材を求めていた場合、「頭の良い」ではどちらを示しているかわからないからです。

このように、採用担当者は人を表現する言葉をどれだけ知っているかも問われるのです。

5.候補者の志望度醸成に必要な3つの力

最後に、候補者の志望度を高めるために必要な3つの力についてお話します。

 

  • 人の心を動かすことのできる情熱
  • 気持ちに最大限寄り添うことのできる共感力
  • 目の前の候補者の人生に影響を与える覚悟

5-1.人の心を動かすことのできる情熱

候補者に「この会社に入りたい!」と思わせることは、その人の心を動かすことに他なりません。そのためには、何よりもまず採用担当者本人が、自社に対して本気の情熱を持っている必要があります。自社の将来や事業の可能性を信じ、コミットメントしていること。

候補者の心の動かすためには、何よりもまず、こちらが重要になります。

5-2.気持ちに最大限寄り添うことのできる共感力

「ジャッジは事実、フォローは主観」ともいわれる通り、志望度醸成のためのフォローにおいては、候補者が抱いている感情、気持ちが最も大切です。

  例えば、「自分は過去こういった経験しているから、御社の○○について気にしているんです」というような候補者が抱く自社のネックに対して、このネックが事実か否かは究極的には関係ありません。仮にそれが事実でないとしても、そう思っているという候補者の心理的現実が存在するからです。そのため、採用担当者は、まずは候補者の気持ちに最大限共感し、理解を示すことから始め、その後に、実際はどうなのか、ということを冷静かつ具体的に説明する必要があるでしょう。

5-3.目の前の候補者の人生に影響を与える覚悟

上でも述べましたが、人の心を動かし、意思決定に影響を与えるというのは、長い目で見ると候補者の人生に影響を与えていることとなります。こと就職というのは人生において紛れもない大きなライフイベントの1つですので、採用担当者は彼らの人生の岐路を左右する仕事をしていることを自覚しなければなりません。

  一方で、こういった自覚を持っているがゆえに、責任を取るのが怖い、という気持ちから、最後の一押しができない採用担当者が数多く見受けられます。

  とはいえ、冒頭述べたように、せっかく良い人材を見つけても、入社してくれなければ何の意味もありません。そのために採用担当者は、人の人生を左右する大役を任されているという自覚と共に、「私が責任をもって採用するのだ」という覚悟を持っている必要があるでしょう。

6.一人三役がどうしても難しければ分担を

ここまで①採用戦術立案、②候補者の見極め(ジャッジ)、③候補者の志望度醸成(フォロー)という採用担当者の三役を見てきました。しかし、特に②候補者の見極め(ジャッジ)と③候補者の志望度醸成(フォロー)は、それぞれに必要な力が互いに相反しているように思われるかもしれません。

現実にはその面が多分にあり、一人の採用担当者の中にジャッジとフォローどちらの適性も兼ね備えている方は少なく、どちらかというと一方を得意で、一方は苦手という方が多いように思います。

冒頭述べた、採用にかけるリソースが現実問題少なくなってきているという事実はもちろんありますが、どうしても一人三役が難しい場合は、時に現場社員に協力を仰ぐなどして「ジャッジはあの人に任せよう」、「フォローは別の人に任せよう」と分担するのも考えたほうが良いかもしれません。

 

7.まとめ

これからの採用担当者の役割は①採用戦術立案、②候補者の見極め(ジャッジ)、③候補者の志望度醸成(フォロー)の3つに大きく分けられること、そして、それぞれの役割に求められる力についてお話しました。

まさにこういった力を持っているか否かが、“これから”の採用担当者に向いているか否かを判断する基準となっていきます。

自社のどんな人材を採用担当者に選任するか、を考える際は、ぜひご参考にしていただければと思います。

参考記事

・「採用担当者に向いている人、いない人」採用成功ナビ新卒

 https://saiyou-knowhow.recruit.co.jp/column/130924

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曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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