人事評価制度を育成に繋げるポイントは納得感と目標設定理論

人事評価制度を単に報酬を配分する仕組み、としてしか使っていませんか?

 人事評価制度の大きな目的のひとつには人材の育成があります。しかし、どのように評価制度を設計すれば、上手に育成できパフォーマンスをあげることができるのだろうかと悩まれることでしょう。

 そのためにはまず、評価を納得してもらうことが重要です。それをお話したうえで、人事評価制度で社員を育成する、ということについて今回はご紹介します。

 

1.人事評価制度には社員を育成する目的がある

人事評価制度は社員を公正に平等に評価し企業が得た利益の分配の指針にするもの、と考えている人事の方も多いと思います。もちろん、その側面は非常に重要です。

 本来、配分は経営者が決めるものではありますが、組織の規模が大きくなるにつれて一人ひとりの成果や行動まで1人の経営者が把握することは難しくなります。したがって、マネージャーなどの評価担当者が、評価制度のルールの下で行ったメンバーの評価に基づいて配分することで、公平性や納得感を担保するわけです。

 

 しかし人事評価制度の側面はそれだけではありません。社員を育成し、会社に価値ある人材へと成長してもらう目的も人事評価制度の1つの目的です。というのも、人材の価値を評定することは、社員への期待を明らかにすることにもつながっているからです。例えば、成果や行動指針を評価するのは、その成果を達成し、理想的な行動を取れる人物になってほしいという願いも込められているはずです。

 それぞれの社員が、自分にはどのような成果・行動・役割が期待されているのか、を理解することで自分の持つ強み・弱みや次へ進むための方策を考えるきっかけになり、社員の育成や行動変革につながっていきます。

 

 では、どのようにして人事評価制度を社員の育成に結び付ければよいのでしょうか。

2.まずは評価に納得してもらう

『人事評価の項目を作成する時に考慮すべき3つのポイント』の記事でも触れていますが、まず人事評価制度において、社員の公平感と納得感を醸成する必要があります。なぜなら、評価に不公平感や不満がある状態では、評価制度の目的を理解してもらうことが難しく、育成という効果が発揮されないからです。

 評価制度の設計で重要なポイントは、何を、誰が、どのように評価するかを考えることです。

2-1 何を評価するのか

評価すべき項目は、「生活」「役割」「能力」「行動」「成果」「功績」の6つです。お気づきの方もいると思いますが、業務に直接関係しないものや、本人の努力で左右されないものも含まれています。これは、多面的に見ることで評価される側の納得感を生み出すためです。

2-2. 誰が評価するのか

日本の企業では、上司が評価することが一般的ですが、近年は360度評価のように周囲や部下からも評価してもらう多面評価の制度も浸透してきています。もちろん、それぞれにメリットとデメリットがあります。

 一般的な上司による評価は、一人の評価者が複数人を評価するのでブレが少なく、運用も楽というメリットがありますが、相性の問題や主観が入りやすいなどのデメリットがあります。一方で多面評価は、専門性の劣る評価者も含まれる場合に評価者の間でばらつきが出てしまうことや、運用が複雑になるというデメリットがありますが、多角的に見れるので評価の妥当性を評価される側が感じやすい、というメリットがあります。

2-3. どのように評価するのか

ここで考慮すべきポイントは、絶対評価か相対評価かということです。とはいえ、報酬原資には限りがありますので相対評価が一般的です。こちらもまたそれぞれにメリットとデメリットがあります。

 絶対評価は、目標の達成度が指標となるので評価がしやすいです。しかし、目標の難易度の調整が正確にできないと評価に納得してもらいづらく、限度ある報酬総額のために評価が高くても報酬が上がらないことがあるなどのデメリットがあります。たとえば、メンバーとしては努力を重ね苦労の末に達成した目標でも、マネージャーからしたらそこまで高い評価ではないことなどがあります。

 相対評価は、一定の母集団内で評価を比較検討するプロセスがあるためフェアな評価になりやすいです。しかし、目標を達成しても周囲にもっと達成度の高い人が多い場合に評価が低くなってしまう人がいるなどのデメリットがあります。

 

 これら3点を会社の実情に合わせたバランスで活用することが公平性・納得感を醸成するうえで重要です。

 しかし、人事評価の基準について公平性高く設計できたとしても、それだけでは社員を納得させるには不十分な場合が多いです。なぜなら、評価者によるばらつき、社員と評価者の認識ギャップによる不具合は必ずと言っていいほど生じるからです。つまり、そのギャップを埋める工夫が必要です。例えば、評価者を集めて基準のすり合わせの研修を行うことや、評価後にメンバーに丁寧なフィードバック面談を行える場を用意することなどが解決策として考えられます。

 

 特に人事評価面談は重要な役割を果たします。評価対象者ができていると考えているのに評価が低い項目に対し、事実ベースで説明し納得してもらうことで、評価者や人事評価制度そのものへの不信感を軽減させることができます。

 そのためには、日ごろからその社員の行動を気にかけ、把握しておくことが重要です。それがマネジメントの基礎だとも言えますが、評価者は日ごろの状況把握、評価、面談が一連の流れであることを認識しましょう。

3.目標設定理論を活用し育成する

こうして評価結果に納得感を得ることが出来て初めて、育成の段階へと進むことができます。というのも、次に目指すべき目標や、その目標に向かうに当たって何が課題なのかが明確になり、納得して理解してもらうことができるからです。また、何にどのように取り組めば課題が解決できるのか、成果につながるのかを提示したり、または一緒に考えたりすることも評価者の重要な役割です。

 目指すべき目標が決まることで、社員の成長を促すことができます。ではどのような目標設定が良いのでしょうか。ここで、目標設定について有名な概念である目標設定理論についてご紹介します。

 目標設定理論によれば、明確で困難な目標を設定することが良いとされます。実は、これが実現できれば、仮に達成できなくても、総じてパフォーマンスは向上することが様々な研究で明らかになっています。目標のレベルがわかることで、力のさじ加減や努力の過程が想像でき、ゴールが明確になることでモチベーションの維持や行動の持続力につながるのです。

 他にも、長期的な目標よりも短期的な目標を設定したほうがパフォーマンスが上がることも示されています。したがって、長期的な目標も、分解し、一つひとつ短期的な目標をクリアするように設定することで、成長し、パフォーマンスが上がるといえます。

 理論的には、毎日目標を立てて毎日フィードバックするのが望ましいです。

 

 ただ、日本ではこうした目標の達成度合が目標管理制度のように評価制度と連動していることが多いので、短期的な目標の成果を頻繁に評価をするということは難しいのが実情だと思います。目標設定の期間が短ければ短期での評価が求められますが、多くの企業は、それが負荷となり半期もしくは1年ごとに目標を設定しています。

 しかし毎日が難しい場合でも、人事評価制度上の目標と日々のマネジメント上の目標を分けることで、毎週や毎月など、半期より短い期間でフィードバックをすることは可能だと思います。それぞれの会社に合った適切な短い期間を決めましょう。

4.まとめ

 今回は、人事評価制度には評価だけでなく、育成という大きな目的があり、そのためにはまず人事評価制度を納得してもらうことが大切であること、そのうえで目標設定理論の活用して育成を促すということついてお話しました。

 評価制度が育成にも一定の役割を果たすことができれば、コストの削減にもつながるでしょうし、何より会社に価値ある人材が育つことほど会社に利益になることはないと思います。さらに、目標設定理論にはほかにも様々な事実が確認されています。

 ぜひ、人事評価制度で育成をするということについて今一度検討してみてはいかがでしょうか。

 より、目標設定理論に詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。

「目標設定する際に、抑えておくべき        3つのポイント」https://docs.google.com/document/d/1SvyykHvYEVsA0IA-iuy2U8nuHlarqdjBfVUNVoBccbM/edit#

参考記事

・「人事と採用のセオリー」 ソシム 曽和利光

・「人と組織のマネジメントバイアス」 ソシム 曽和利光・伊達洋駆

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曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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