1.優秀さとは何か

個人的には「優秀さ」というと、優生学的な思想を彷彿してしまい、実は言葉自体はあまり好きではありません。臨床心理の世界にいたので、「すべては個性で、そこに優れているも劣っているもない」という価値観が根付いているのもあるかもしれません。

とはいえ、世の中の一般的な会社は営利組織であり、そこに社員として在籍している以上、一定の価値を発揮してもらわなければならず、その価値発揮の大きさとして優秀さが求められるのはもちろん理解できますし、ある意味当然であるとも思います。

これを踏まえた上で、優秀さとは何なのかについて考えてみます。

優秀という言葉は「優れている」と「秀でている」という2つの言葉から成り立っていますが、優れていたり、秀でていたりするというのはあくまで他の誰かとの比較の結果です。

つまり、優秀さとは絶対的なものではなく、基本的に相対的なもの、言い換えると、場面によって異なるものです。

そのため、優秀な人は“どんな仕事”でも優秀かというとそうではありませんし、“どんな時代”でも優秀かというとそういうわけでもありません。

もちろん多くの能力のベースとなっているコアスキルとして、仕事や時代を超えて優秀な人材に共通する特徴もいくつかありますが、これも可変的なもの、つまり後天的に育てていくことができるものです。

また優秀さはあくまで仕事をする上で優れている力を持っていることですので、優秀さ自体がその人の人間的な価値を決めるわけではないことを、私たちは前提として持っておく必要があるでしょう。

2.何をするかによって優秀さは変わる

まず、優秀さはどんな仕事をするかで変わります。

例えば人事がよく活用するフレームワークとして「RIASEC」という職業選択理論があります。これはどんな仕事にはどんな性格(パーソナリティ)の人が向いているかを示したフレームワークで、あらゆる仕事を計6つの型に分類し、それぞれで求められる性格特性を示しています。例えばエンジニアや技師のように「現実型(Realistic)」の仕事には、現実的で粘り強く、控え目で落ち着いている人が向いていることが多いと言われているのです。

 

【職業選択理論「RIASEC」】

 

 

この理論からも分かる通り、自分の性格が仕事への強みとなるか否かはどんな仕事につくかで大きく変わります。よく「強みと弱み」と言われますが、本来絶対的な強みなどはなく、人が持つのはフラットな性格特徴だけです。

それを強みとして活かせるかどうか、つまり求められる優秀さは仕事によって異なるということです。

3. 仕事の「知性化」によって変わる優秀さ

また、優秀さは時代によっても変わり、昔と今では少しずつ変わってきています。

それはなぜかというと、多くの仕事の内容そのものが時代に合わせて変化してきており、仕事が昔よりだんだん「知性化」してきているからです。

営業職を例にとると、昔はリストアップした潜在顧客に対して電話をひたすら掛けたり、飛び込み訪問をひたすらしたりして、何%かの確率でアポイントメント(商談)が決まり、そこからまた何%かの確率で受注につなげるというのが営業の主な仕事内容でした。

となると、営業に求められるのはまずコミュニケーション力。それから努力と根性からなる圧倒的な行動量が重要でした。

しかし、今の営業職は、そういった非効率をどれだけ少なくするか、行動の質に焦点が当てられています。

例えば、魅力的なセミナーを開いて見込み顧客を取り込み、彼らにだけアプローチすることで商談獲得率を高めるなど、いかに効率良くアクティブな顧客リストを作るかという方に専念する形になってきています。

さらに言えば、営業という仕事自体が役割を終えてきて、マーケティングの時代にもなってきています。マーケティングを駆使して自社ブランドを広く浸透させることで、こちらから営業をしなくても、反響(顧客からの問い合わせを受けてから行われる営業)で受注する方が効率的です。

そうなると、これまでのヒューマンスキルに加えて、どれだけ賢くそのリストを作るかといった知性の部分が重要になってきます。

人事を例にとっても、もともと「どういった人材が自社に合っているのか」や「誰をどこに異動させるべきか」などの人事は経験と勘を中心に行われていました。ベテラン人事マンが何十年と培った経験や勘を元に、何とか適切な人事が行われてきていた状況だったのです。

しかし、今の人事は、「エビデンスベースドHR」や「データベースドHR」といって、正確なファクトとエビデンスによって実行されています。統計分析などを駆使して行われるようになってきたのです。

そうなると、人事に必要なのは、社内に幅広い人脈と影響力を持っていることだけでなく、データ収集能力や分析能力、それを理解するための組織論や心理学の学術的知識です。

このように、現代ではオンライン化、デジタル化が進み、色々なデータが取れるようになってきたため、全ての仕事が科学化、知性化してきています。

ビジネスの対象となるものに対して、アートやヒューリスティックな側面だけでなく、学術研究の世界で行われてきたように、サイエンス(科学)の側面が重要になってきたということです。

この流れの中で、会社が求める人材の優秀さについても、これまで「ヒューマンスキル偏重」だったのが、今後は「インテリジェンス偏重」に変わっていくと思われます。

近年、ITスキルを中心といた『リスキリング』の重要性が叫ばれているのも、仕事がこのように知性化しているからでしょう。

今後、私たちは、変わっていく優秀さを人事として自社の採用や教育の方針に取り入れていかなければなりませんし、働く一個人としても、これから求められる優秀さに適応していく必要がありそうです。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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