1.就活のエピソード選びに感じた違和感
普段、採用の仕事をしている私ですが、実をいうと、自分が学生の時はいわゆる新卒の就活というものをあまり経験してきませんでした。私は元々臨床心理士になることを高校時代から決めていたので、そのために心理学科を選び、臨床心理士の卵が皆入る研究室に入り、卒業論文も2本書きました(私の大学の心理学科では就職志望の人は、卒論は1本だけでよく、心理士になるために大学院へ進む場合は2本書く必要があった)。
そんな中で、大学3~4年生の時は、周りの就職組の友人たちがインターンシップ、ES、面接…と就活をしている中で、ひたすら大学院の勉強をしている毎日でした。
そういった背景もあって採用の世界に入った時には、まったくのゼロベースで覚えることがたくさんあり、苦労しました。一方で、「就活とはこういうもの」という色眼鏡なく、ある意味フラットに見ることができたため、色々なものに対して違和感を覚えることもありました。
前回のテーマに挙げたインターンシップの定義と実態がかけ離れていることもその一つでした。そして、もう1つ違和感を覚えたのは、就活で話されるエピソードが「課外活動に偏っている」ことでした。大学時代は、部活・サークル・アルバイト・ボランティアなどの課外活動だけでなく、学業にも相当な時間を過ごしています。
なぜ学業のことは、学生は全く話さないし、企業も聞かないのだろうかと感じました。
今日はその違和感について話してみたいと思います。
2.学業から見える資質の方が仕事には重要なのではないか
新卒採用の面接は、学生の仕事に対するまだ顕在化していないポテンシャルを計るのが目的です。「この学生はうちの仕事で発揮できる資質が十分あるか」を確認しにいっています。
では仕事とはそもそもどういった性質を持っているのかというと、どの業界・どの職種においても、自分がやりたい仕事と義務的に発生するやらなければならない仕事があります。
特に新人のうちは、やりたい仕事よりも、与えられた仕事の方が多いでしょう。
となると、本来的には、課外活動よりも学業から見える資質の方が、仕事には重要かもしれません。というのも課外活動の多くは、そもそも「やりたくてやっている楽しい活動」だからです。
こういった課外活動の中で頑張ったことを面接で話しても、やりたいことだから頑張れるのは考えてみれば当たり前のこととも言えます。
そうではなく、与えられた課題や義務に対してどう向き合い取り組めるかが大事ではないかと思うのです。
色々な企業で、活躍する人材(ハイパフォーマー)の特徴を調べると、彼らは与えられた課題や義務に対して自分なりの目的や意味づけをして取り組んでいけるという特徴を持っています。よく組織や人事の世界では「絶対的に面白い仕事が存在するのではなく、その仕事を楽しめる人が存在しているのだ」とよく言われます。
そのため、本来、採用者側は面接の中で、学生がこういったやらなければならない状況に置かれた時に、その状況とどう向き合い、どう行動したのかを確認すべきだと思います。
学生にとっての義務、やらなければならないことは課外活動よりも、学業の方が多いからです。
3. 企業側から変えていく
もちろん、課外活動から確認すべき資質もあります。例えば、自分が興味関心のあることに対する最大のポテンシャルです。推進力や実行力は、学業よりも課外活動の方が確認しやすいかもしれません。
一方で、学業からは、やらなければならない義務や避けられない環境に対する受け止め方、楽しいわけではないが必要な場面での行動特性を確認できます。
具体的には
・どんな意図・目的を持って授業を選んだのか
・その授業では実際にどんな行動をしたのか
などから意味づけ力、目標設定力、当事者意識などが確認できるでしょう。
ただ、現状では履修行動を通して自分の資質をどうアピールしたら良いか、いまいちわからず、面接での自己アピールで履修行動について話す学生は非常に少ないのが実態です。ある調査では学生が就活の自己PRで話すのはアルバイトやクラブ・サークル経験が半分以上の割合を占めています。またその理由は、「日常の学業行動にはインパクトのあるエピソードがないから」というものでした。
つまり、学生は履修行動によって自分の資質をアピールできると思っていない、ということです。
この現状を打開するために、これまで慣習的に行ってきた「課外活動偏重」のエピソード選びに対して、まずは企業側から面接での質問を変えるようにしていくべきかもしれません。例えば「学業行動に表れているあなたの長所を教えてください」などからでも良いと思います。
課外活動だけでなく学業への取り組みにも企業側が関心を持ち始めている、ということがきっかけで学生の就活のエピソード選びに対する意識を少しずつ変えることができるでしょう。また、それが長い目で見ると学業をおろそかにしない学生を増やすことにつながり、もしかすると日本の大学教育全体のレベルを引き上げることにつながるかもしれません。
安藤健