1.制度や仕組みの使われ方

制度や仕組みは、使われなければ意味がありません。

しかし、その使われ方にはいくつかパターンがあるような気がします。

・制度を作った人が最初に想定していた通りに使われる(本来の趣旨通りの運用)

・制度を作った人が最初に想定していた通りではなく、実態のニーズに合わせた形で使われる(本来の趣旨ではない運用)

・使われない

このうち、一番悲しいのは、「使われない」の一択ですが、制度の中には使われてはいるものの、本来の趣旨に沿わずに実態のニーズに合わせた形で使われていることもあります。

では、本来の趣旨に沿っていない使われ方は悲しいことでしょうか?

実態のニーズにあっていれば、それは良しとされるべきかもしれません。

その1つの例として、今日は日本でガラパゴス化した「インターンシップ」という存在を挙げたいと思います。

2.インターンシップの本来の趣旨と実態の乖離

今や、インターンシップ(以下インターンと略します)は企業の新卒採用活動の一つとして捉えられています。日本の大手企業ではほとんどの会社が採用選考と実質的に連続した形でインターンを実施しているのではないでしょうか。

このようなインターンですが、日本でガラパゴス化しているいうのは、それが本来の形とまったく異なるものとして定着しているからです。

大学生や企業の採用担当者であれば説明するまでもありませんが、日本のインターンは、「インターン」と称しながら、実際はただの会社説明会であることが多いのが現状です。

つまり明確に採用活動の一貫となっているわけです。

しかし、そもそもインターンの趣旨について政府が明示している内容を見ると「学生の職業理解や主体的なキャリア形成を支援する目的として就業前の学生に対して就業体験を提供すること」と書いてあります。

これを文字通り読むと、「就業体験を提供すること」なので、“実際に働いてみること”が本来の趣旨に沿ったインターンのはずです。

ただ、現実にはそうなっていません。

なぜ、本来の趣旨と実態がこんなに乖離しているのでしょうか。

3.インターンシップの実態が乖離した背景にあるもの

インターンの発祥とされ、現在でも活発に行われているのはアメリカやヨーロッパなどの欧米諸国です。そしてその内容は、実際に仕事の現場に入り込んで数か月に渡って実業務を行うというものが一般的です。またこういったインターンは、低水準ではありますが賃金も発生します。

この欧米のインターンの考え方が日本に輸入され、政府・企業・大学が連携してこれまで普及させようと動いてきました。

ただ日本では、実態として1日で完結するという「1dayインターン」なるものが多く実施されており、内容も実際の現場業務体験というよりも会社説明や業界研究セミナーなど、実業務とはかけ離れたレクチャー形式が多いのが現状です。

一部のITベンチャーのエンジニア向けインターンでは、実際に現場に入り、社員とチームを組んでコードを書いたり、プロジェクトに本格的に関わったりする形も取られていますが、こういったインターンはまだまだ主流とは言えません。

ではなぜ、日本のインターンはこのように本来の趣旨とは異なる方向に変わってしまったのか。

それは、そもそも日本の雇用慣行の特徴である「新卒の総合職採用」が背景にあると思います。

実は日本と欧米では雇用慣行が大きく違います。

欧米では「ジョブ型雇用」といって、ジョブ(仕事)が先に存在し、そのジョブ(仕事)ができる人をあてがっていく雇用慣行です。

そのため、そもそも新卒入社枠というものが存在しません。つまり、大学を卒業したての人も、ベテラン経験者も同じ土俵で1つのジョブ(仕事)を争うことになります。

となると、何もスキルがないまま大学を卒業してしまうとどこにも就職できない!ということになるので、結果的に大学在学中にスキルを磨くため学生たちは必死でインターンに参加し、長期で現場業務を経験するのです。

仮に低賃金でも、学生の目的は仕事の経験を積んでスキルを磨くためなので、あまり問題にならないわけです(ただ、最近はインターンと称して無給で働かせる事例なども増えており、それはそれで問題になっているようです)

一方、日本では、ジョブ(仕事)より先に一緒に働くメンバーを募り、状況やその人のスキルに応じて仕事を柔軟に変えていく雇用形態をとっています。

「総合職採用」とはそういった意味で、ようは「採用してくれたからには何でもやりまっせ!」という職種?なわけです(これを“職種”と呼ぶかどうかも難しい…)

これは良いこともたくさんあります。例えば、何もスキルがない新卒社員にも、彼らにできる相応の仕事が何らか用意されています。

裏を返すと、日本の学生たちは在学中に将来必要なスキルを一生懸命磨く必要がないので、結果としてインターンも就業体験ではなく、会社説明会などに変わっていったのではないかと思うのです。

4.実態に合わせて柔軟に形を変える制度

こういったインターンの変化が、一概に悪いわけではなく、結果的に日本の雇用慣行に沿った形に落ち着いたともいえます。

このように制度や仕組みが実態に即した形で変化していくこと自体は悪ではない気がします。その土地にあった在り方であればよいのかもしれません。

むしろ“その土地にあっていないから使われなくなってしまう”のではなく、公式の形を保ったまま、実態を柔軟に変化させていく制度は、まるで生き物のようで神秘的とさえ感じる今日この頃です。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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