納得できない人事評価と言わせないフィードバックの5つのポイント  

誰しも自己評価と他者評価の間にはギャップがあり、たいていの場合、自己評価のほうが高いのです。つまり、社員が人事評価に納得できないのも必然といえるでしょう。したがって、ネガティブなフィードバックの伝え方を工夫する必要があります。

 ネガティブなフィードバックを受け入れてもらうことができれば、不満の減少だけでなく、社員の成長にもつながります。

 今回は、そうした効果的なフィードバックにするための5つのポイントについてご紹介いたします。

1.なぜ人事評価は不満をもたれやすいのか

転職理由のランキングの10位前後には”評価に不満がある”がおよそランクインしています。給与や人間関係に比べればさほど多い不満とは言えませんが、必ずどの企業にも根強く存在する不満であることは間違いないでしょう。

 

 その大きな原因のひとつは、自己評価と他者評価のズレにあります。別記事(新卒入社後の人事評価で人事が念頭に置くべき3つのポイント)でも紹介していますが、若手に限らず自己評価というのは、正確性にかけるうえ、他者評価よりも高くなる傾向にあることが知られています。特に、外向性や統率性などの特性を持つ強気な性格の人ほどズレが大きいことが研究でわかっています。

 

 言い換えれば、たいていの場合、評価を伝える時というのは、評価対象者が期待している評価よりも低い評価を伝えることになると言えます。さらに言えば、評価対象者からすればそれはネガティブなフィードバックを伝えられることが多いということです。そう考えると、不満が多いのも当然と言えます。

2.フィードバックを受ける際の4つの動機とは

評価面談やフィードバックの場において、たとえその社員にとってネガティブな内容でも評価やフィードバックを伝えないわけにはいきません。したがって、大事なことは、評価対象者を納得させるフィードバックをしなくてはならない、ということです。

 

 しかし、人事評価面談の場においても、評価対象者がネガティブなフィードバックを聞き入れてくれないこともあると思います。相手が傷つかないように丁寧に、かつ行動の改善につながるように告げるにもかかわらず、まったく刺さらない、納得してもらえないという経験をしたことがある人も多いでしょう。

 

 ネガティブフィードバックを納得し、改善効果を生み出すには、たとえ良いアドバイスであってもフィードバックを受けた本人が、「良いアドバイスを受けた」と感じる必要があります。そのためには、丁寧な表現を使いながらも改善すべき点をわかりやすく指摘する技能や、適切な関係性を築けている人物がフィードバックするという点が重要です。こうした適切なフィードバックについては次節でご紹介します。

 

 その前にここでは、フィードバックを受ける側が、受ける際に4つのモチベーションのタイプがあることをご紹介します。それは「自己改善動機」「自己査定動機」「自己高揚動機」「自己確証動機」の4つです。

 まず、自己改善動機を持つ人は自己成長という前向きな姿勢でフィードバックを受けます。次に、自己査定動機は的確に自分を評価するというモチベーションです。

 3つ目の自己高揚動機は自分を高く評価したいという動機で、4つ目の自己確証動機は自分が求めるフィードバック以外は聞きたくないという姿勢でフィードバックを受けます。

 

 なぜ、この4つの動機のタイプをご紹介したかというと、前者2つの動機は比較的ポジティブにフィードバックを受け入れ、後者2つの動機の場合には消極的に、あるいはフィードバックを受け入れないという特徴があるからです。

 つまり、ネガティブフィードバックの際に不満を減らすには、フィードバックを受ける前に受け手の心理状態を自己改善動機か自己査定動機となるように動機形成を働きかけることが必要です。そのためには、日常的に小出しに評価を伝えて評価を予期させたり、課題をスモールステップに分解するなど、行動の改善に前向きになるような意識づけをするとよいです。

3.フィードバックで納得してもらう5つのポイント

具体的に、どのような点に気をつければ、不満を減らし納得してもらえるのかというと、「行動ベース」で「近い関係の人物」が「適切なタイミング」で「関心があること」について「ポライトネス理論を意識」してフィードバックをするという5つのポイントを意識することです。

 

 まず1つ目は、「行動に対して具体的にフィードバックすること」です。当たり前のように思えますが、実は多くの人は、フィードバックをする際に「観察者バイアス」に陥りやすいです。観察者バイアスとは、他人の問題行動については性格や能力に問題があると考える一方、自らの問題行動については状況や出来事に原因があると考える傾向です。つまり、多くの人はフィードバックする際に、その人物の性格や能力に問題があると指摘しがちということです。

 こうした内面の否定はおよそ全否定されたように受け取られてしまい、フィードバックを受け入れてもらいにくいのです。なので、性格や能力ではなく行動を指摘することを強く意識しましょう。

 

 2つ目は、「近い関係の人がフィードバックすること」です。また、ただ近いだけでなく、その人がメンバーが何月何日に、どのような場面でどのようなことをしたという事実を把握していることも重要です。なぜなら、指摘された行動に対して、それがいつのどのような行動だったかという情報が付随されていることで、フィードバックを受ける側の納得感も大きく違ってくるからです。

 

 3つ目は、「適切なタイミングでフィードバックすること」です。なぜなら、時間が空くと、フィードバックの効果が薄れてしまうからです。フィードバックの効果が薄れることは、評価対象者にとって嫌味に聞こえてしまうこともあります。したがって、最も望ましいのは、問題点が顕在化したタイミングです。週1回のミーティングがあれば迅速にフィードバック、改善行動へとつなげやすいでしょう。また、半期に1回の評価面談でこれまでの経緯を指摘することで、メンバーも評価を予期することができ、評価を受け入れやすくなります。これは先に述べたフィードバックを受ける際の評価対象者の動機形成にも効果的です。

 

 4つ目は「関心があることをフィードバックすること」です。その理由は、例えばコミュニケーション能力に関心を持っているメンバーには、コミュニケーションが足りてない点を指摘する、というように関心領域と重なるフィードバックは不満につながりにくいからです。なお、具体的な改善行動については、すぐに実行できることを考えさせると良いです。

 ここで難しいのは、メンバー自身は関心を持っていないが、業務上重要な領域のフィードバックです。この場合は、時間をかけてモチベーションと改善してほしい領域を結びつけることが大切です。モチベーションリソースは人によって様々です。メンバーのモチベーションリソースを把握し、改善してほしい領域を結びつけることで、その重要度を高め、フィードバックを受容してもらいやすくなります。

 

 最後に、「ポライトネス理論でフィードバックすること」です。ポライトネス理論とは、フィードバックの受け手が「メンツ=フェイス」を潰さないように定式化したものです。この理論によれば、「①親しくない人から言われる」「②下の立場の人から言われる」「③行動を大きく変える必要がある」時に人は、フェイスを脅かされます。

 つまり、自分より若い知らない人から根本や内面を否定されることが最も不満を醸成しやすいということです。

 したがって例えば、評価面談の場で年上のメンバーにネガティブフィードバックをする必要がある際には、そのメンバーよりも年上で上位管理職の方に同席してもらうなどの方法や、多面評価の場合は評価を数値化して誰がどの評価かわからないようにするなどの工夫の必要があります。

 

 このように評価面談やフィードバックの場だけでなく、フィードバックする前のプロセスも重要です。成長意欲を高め、成長目標を立て、関心領域を把握したうえで具体的にフィードバックすることを心がけることで、不満が減少するだけでなく、行動の変容や社員の成長にもつながることでしょう。

4.まとめ

今回は、フィードバックの際、特にネガティブなフィードバックをする際に意識するべき5つのポイントを紹介いたしました。

 日々の行動の把握や、適切なタイミングの企図などは日々の忙しさから、意識しきれない方も多いと思いますが、年に数回の評価面談の場は、評価結果を伝えるだけでなく、企業に価値ある人材へと育つきっかけとなる大変貴重な場面でもあります。

 ぜひ、5つのポイントを意識して評価面談に臨むことをおすすめします。

参考資料

・「人と組織のマネジメントバイアス」 ソシム 曽和利光・伊達洋駆

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曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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