現場に漬かってみることの大切さ

1.さまざまな調査手法

人事コンサルタントとして、人事・採用に関する様々なプロジェクトに関わる時、まず初めに行うことは情報収集です。

例えば、自社ではどんな人材を採用すべきかという採用ターゲットを決める時やどんな人材を目指して育成プログラムを組むかといった場合、具体的にはどんな能力/知識や性格、価値観を持っているべきかを明らかにする必要があります。

そのための情報収集には、例えば以下のような調査手法があります。

 

①アンケート調査

②インタビュー調査

③エスノグラフィー調査

 

調査手法には大きく分けて、統計などを用いてデータを数的に分析する定量調査と、インタビュー回答などを整理して個別性高く洞察を得られる定性調査の2つに分かれます。

上記の①アンケート調査は定量調査にあたり、②インタビュー調査や③エスノグラフィー調査は定性調査にあたります(ただ最近では、インタビューの結果などを定量的に分析する手法もあったりします)。

最近は「データベースドHR」「エビデンスベースドHR」などといわれ、科学的根拠に基づいた人事が求められる動きとなっています。その中で、統計分析が可能なアンケート調査などへの注目が集まっています。アンケート調査には、現在の仕事や職場に対するエンゲージメントサーベイやSPIなどのパーソナリティテストなどがあります。

アンケート調査であれば、一度に大量のデータが取れますし、選択肢の中から回答させるなど予めデータの形が整理された状態で取れるので、その後の分析も比較的容易です。

ただし、予めこちらが想定した認識の枠内でしか回答を得られないデメリットがあります。これはインタビュー調査にも似たところがあり、基本的にはインタビューを受ける人の認識の枠内でしか回答を得られません。「プロはなぜ自分がプロであるか説明できない理論」で、プロフェッショナリズムは、無意識的に行われる自動化の産物であったりするためです。

そのため、アンケートやインタビューに加えて、できればエスノグラフィー調査をするのをお勧めします。

2.エスノグラフィーとしての現場同行の価値

エスノグラフィー(ethnography)は、簡単に言えば、実際に現場に入って、行動を目で見てみるという方法です。

元々は文化人類学の分野で生まれた調査方法でした。

『サモアの思春期』の作者の文化人類学者マーガレット・ミードは、南洋の小島サモアの文化を理解するために、実際に現地で一定期間暮らすことで、異文化理解を深めました。

話す言葉も文化も、自分たちのそれと全く異なる異文化を理解するためには、アンケートやインタビューでは正確に情報収集できないわけです。

これをビジネス、こと組織人事施策に応用すると、以下のような色々なメリットがあります。

 

・本人も無意識に行っている行動を直接観察でき、新たな気づきが得られる

・組織やチームの関係性まで見える

・現場メンバーと自分の顔の見える関係ができ、後の導入がしやすくなる

 

“本人も無意識に行っている行動を直接観察でき、新たな気づきが得られる”

現場に入ってみることで、インタビューやアンケートでは見えない情報がたくさん得られます。作業の導線、視線の動きやメンバーとのアイコンタクト、姿勢や動作に至るまで言葉にはならない重要な情報がたくさん落ちています。

インタビューで、本人は「この仕事はここが大事」といっていたけれども、実はこの行動がキモなのではないか?と気づくことがたくさんあります。

 

“組織やチームの関係性まで見える”

アンケートや1対1のインタビューでは、わからないもの。

それは現場メンバー同士の関係性です。特に現場の実際のキーマンは誰なのか。フォーマルな役職者が必ずしもキーマンとは限りません。現場にはインフォーマルな関係性が網の目のように張り巡らされており、どこを押したら動くのかは、人事施策を現場に浸透させるうえでは把握しておくべき大切な情報です。

 

“現場メンバーと自分の顔の見える関係ができ、後の導入がしやすくなる”

これは副次的なメリットですが、個人的にはものすごく重要だと思います。

アンケート調査の結果だけで決められた人事施策が、現場に納得感もって受け入れられるでしょうか?

結局は「どんなやつが考えたのか」「自分たちのことを本当に理解した上で考えたのか」が重要になります。そのために現場に入り、顔が見える関係を築くことが何より効果的だと思うのです。

正直、これだけでも、現場に入る意味があると思います。

 

最後に、こうしたエスノグラフィー調査が最も効果的なのは接客系や工場系、医療系などのリアルな作業がある仕事かもしれません。基本PC上でのみ仕事をしているエンジニアなどでは、現場と言っても特徴が見えにくいからです。

組織人事施策は、考えて作ったら終わりではなく、それが現場に受け入れられ、浸透することが本来のゴールです。

そのためにも、エスノグラフィー調査を活かしてぜひ一度、現場に漬かってみることを推したいと思います。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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