1. 面接は実は精度が低く、非常に難易度が高い選考手法
まず初めに、多くの企業で取り入れられている面接ですが、実は精度が低い、且つ非常に難易度が高いということをご存じでしょうか。 定型の質問を用意しない完全に自由な面接においては、知能的能力テストや職業体験を行うインターンシップなど数ある選考手法の中で最も精度が低いという研究結果も出ています。*1
何故なのでしょうか。それは面接で人が人を評価する際に様々な心理的なバイアスが発生する為です。 ここでは4つ例を挙げてさせて頂きます。
・確証バイアス:人間は固定観念に陥りやすい。
・初頭効果:直観や面接を始めて早々に人物の評価を決めてしまう。
・ハロー効果:良いところや悪いところを過剰に重点を置いてしまう。
・類似性効果:自分に似た人を好む傾向にある。
これ以外にも、誰かと比較しないと良いか悪いか評価が出来なかったり、採用しないといけないというプレッシャーから評価をあげてしまったりすることなども面接の精度を妨げる要因としてあげることが出来ます。
また、面接担当者の間で求める人物像や採用基準が異なったり、同じ情報でも人によって異なった解釈をしてしまう点なども面接の難しさと言えるでしょう。
この様に多くの企業で広く一般的に行われている面接手法ですが、実は注意して意識的に行わないと精度が悪く、採用すべき人材を不採用にし、自社に合わない人材を採用してしまうといった事になりかねないのです。
それでは、どの様な点に気をつけて面接を行えばいいのでしょうか。
2. 面接を行う際に注意するポイント
面接をする上で、まず重要なことは「1度の面接で全てを見ようとしない」ということです。何故かと言うと、人のポテンシャルを見抜くことは非常に難しい為、1回の面接で能力やパーソナリティなど様々な面を見ることは不可能だからです。
初期選考、中期選考、最終選考というようにステージごとに面接選考の役割の比重を変え、見るべきポイントを絞り込み、集中する必要があります。
初期選考 ~能力面のスクリーニング~
初期選考では「基礎能力」でスクリーニングをするといいでしょう。 初期選考の段階では候補者となる学生は玉石混交なので、まずは人数を絞りこむ必要があります。
ここでは評価基準が比較的シンプルな「基礎能力」にフォーカスする事で面接担当の負荷を下げ、選考精度を高めましょう。
見るべき能力というのは事業や業務の特性によって変わりますが、基本はコミュニケーション力や論理的思考力です。 つまり、「質問意図をきちんと理解をしているか」、「質問に対して、わかりやすく的確に答えることができているか」を見ます。
ここで重要なのは「それ以外は評価をしない」ということです。先述の通り、短い時間で能力だけでなくパーソナリティまで評価するというのは現実的ではない為です。
中期選考 ~パーソナリティのスクリーニング~
中期選考ではパーソナリティなどでスクリーニングします。初期選考で基礎能力は見たので、中期選考で会う学生は質問に的確に答えられる人が多いはずです。 企業側が短い時間の中で矢継ぎ早に質問を行っても、欲しい情報が得られる状態になっているということです。こうして難易度が高いパーソナリティを評価する土台が出来たわけです。
初期選考で能力面を評価するには学生が答える話の中身自体はそこまで重要ではなく、質問意図にきちんと対応した回答になっているのか、論理的に筋が通っているかという点が重要でした。
しかし、中期選考ではパーソナリティを評価する為、話の中身自体が重要となり、難易度が高まります。 その為、中期選考においてはマネージャーや人事の採用担当者などのある程度面接に慣れている方を面接官とすると良いでしょう。
最終選考 ~優先順位付けによるスクリーニング~
最終選考では、応募者内の相対評価、優先順位付けを行います。最終選考に残っている学生は、基礎能力は一定以上で、パーソナリティも自社の事業や風土に合っている人に絞られています。 しかし、企業には採用枠に制限がある以上、当然ながら採用の優先順位を付けなくてはなりません。
それでは、ここでの優先順位とは何でつけるのでしょうか。 それは「レベル」でつけるほかありません。 先述の通り、最終選考に残っている学生たちはいずれも一定の基準を満たした人たちです。その中で、相対的に「レベルが高い」人を見出すことが最終選考の役割なのです。
レベルを見る為には時間をかけてできる限り具体的な情報をヒアリングします。その上で、同じ傾向の能力やパーソナリティを持つ人々の中で、目の前の人がどのレベルかを判断します。 そのレベルを見分ける方法はただ一つです。 担当者の頭の中にある「人物データベース」との比較しかありません。 「自社の誰々と比べてどうか」、「これまで会ってきた、似たような学生の中でどうか」ということを見るしかないのです。
その為、最終面接の担当者は比較できるような人物のデータベースを沢山持ち合わせている経験豊富な方である必要があるのです。
3. 採用担当者が面接で抑えるべき3つのポイント
ここまでで面接の難しさ、注意すべきバイアスやフェーズ毎に見るポイントについてお分かりいただけたと思います。
では、実際の面接の場において、採用担当者は候補者に何を聞けばいいのでしょうか。
そのポイントは「事実を聞く」、「分かりやすいエピソードを選ぶ」、「ディティールを深掘りする」の3つです。 これにより学生の思考特性、行動特性を探るのです。
3-1:事実を聞く
まず、1つ目のポイントは「事実を聞く」という事です。 抽象的な主観や意見ではなく、より客観的で具体的な「過去のエピソード」を聞くようにしましょう。
何故なら、新卒学生は面接に臨む際に「自己PR」と「志望動機」を準備してくることが多いです。 その為、自由に話してもらうと、話題の中心はこの2つになってしまいがちだからです。
例えば、「私は行動力がある人間です。これを活かして御社に貢献したいと考えております」、「私が御社を志望しているのは理念に共感したからです」などがよく耳にするフレーズです。
しかし、自己PRで語る自らの強み/弱みや志望動機は、多くの場合主観的であり、且つ抽象的です。仕方ないことですが、これは仕事経験の乏しい新卒学生は訴えるべき実績を持っていない為です。 そして、抽象的な強み/弱みや、志望動機をいくら聞いても、その学生の特性はわかりません。
ですので、面接でまず聞くべきは、より客観的でより具体的な学生の「過去のエピソード」です。 先の自己PRや志望動機も背景には何かしらのエピソードがあるはずです。面接ではエピソードに対する彼らの解釈ではなく、事実そのものを丁寧にヒアリングしていきましょう。 この過程で「コミュニケーション能力」や「論理的思考力」などの基礎能力も確かめることが可能です。
3-2:~分かりやすいエピソードを選ぶ~
2つ目のポイントは「分かりやすいエピソードを選ぶ」です。 どんな人でも過去に多くの経験をし、エピソードを抱えています。面接において学生は、その中から自らが面白いと思ったものを選択して話をします。
では、採用担当社は学生からどの様なエピソードを面接で聞くべきなのでしょうか。
答えは「分かりやすいエピソード」です。何故なら、その方がその学生の人となりがわかる為です。
ここで「分かりやすいエピソード」と「分かりにくいエピソード」の例をあげてみます。
■分かりにくいエピソードと分かりやすいエピソード
・1人で頑張ったことよりも、「人と関わって」頑張ったこと
・順風満帆な話よりも、「苦労した」話
・好きなことよりも、「嫌なことを楽しんだ」こと
・短期間での出来事よりも、「長期間にわたる」出来事
勿論、1人で頑張ることの価値を否定しているわけではありません。ただ、マラソンのトレーニングや受験勉強などのエピソードからは勤勉さや、忍耐強さの性格はわかっても、組織で仕事をする上で重要となる、人と関わる時の行動特性や思考特性はわかりません。
また、「順風満帆な話」よりも「苦労した話」の方が、その人の行動特性が読み取れます。順風満帆な状況はありとあらゆることが追い風となっている単にラッキーな状況であることも多く、成果を生み出す上でその人が何にどれだけ貢献したのかという点はわからないからです。 また、その頑張りというのが「好きではないもの」においても再現性があるかどうかはわかりません。
一方、困難に遭遇したり、トラブルを乗り越えた話には、その人の力が発揮された生の情報は詰まっています。 困難な状況下で、どんな判断基準の基に意思決定をし、どんな工夫をし、どんな行動をしたのかという事が見えやすいのが苦労した話です。
「好きなこと」についての話もわかりにくくなりがちです。何故なら、人は自分が好きなことには誰しも頑張るものです。 しかし、そこでの頑張りが「好きではないもの」で発揮できるかどうかはわかりません。
むしろ、「嫌なことでも工夫して取り組んだこと」のエピソードの中に、仕事で発揮できる特性を発見できます。
組織の中で仕事をする際は、何も好きなことだけやるという状況は極めて稀です。 時には気が進まないこと、嫌なこともやらないといけないことも多々あります。 ですので、再現性がある特性を発見する為にも、好きなことよりも、嫌なことでも工夫した、頑張って取り組んだことを聞くべきなのです。
最後に、「短期間の出来事」よりも「長期間にわたる出来事」のエピソードを聞きましょう。 何故なら、長期間にわたる出来事こそが、再現性のあるその人の特性だからです。
能力や性格は、「行動や思考の習慣」です。そして、習慣とは基本的に「長期間にわたる繰り返し」です。 短期間の出来事では、本当にその人に身に付いているものかはわかりません。 だからこそ、短期間ではなく長期間の出来事を聞くべきなのです。
これらを重点的にヒアリングすることより、難易度が高いパーソナリティの評価が可能にとなります。
3-3:ディティール(詳細)を深掘りする
学生に聞くエピソードを選んだら、今度はそれを「役割」、「程度」、「動機」の3方向から深く掘り下げましょう。これで「最終的な評価(優先順位付け)」に必要なディティールの情報を収集するのです。
■役割の深掘り
そのエピソードの「舞台環境」がどの様なもので、その中で学生が「どの様な役割」を担っていたのかの情報を収集します。
例えば、下記の様な切り口です。
・どの様な人と一緒にやったのか?
・どういう風土・文化のチームや組織だったか?
・指揮命令系統(先輩同期後輩などとの関係性)はどうか?
・業務分担や目標はどの様になっていたか?
・追い風だったのか、向かい風だったのか?
これらを最初に押さえておくことで、その人が実際にやったことを判断する上でのベースとなります。
■程度の深掘り
ここでは、その人がやったことのレベル感、いわば「難易度」や「希少性」の情報を押さえます。 程度を押さえる上での基本は、「できるだけ数字に落とす」ということです。
「どれくらいの期間か?」、「何人ぐらいが関わっていたのか?」、「どの様な苦労があり」、「どのぐらいの希少性があることをやったのか?」などの情報を集めます。
例えば、音楽イベントを企画、実行したというエピソードであれば、動員数や運営スタッフ数、収益の規模、会場規模や準備期間など、できるだけ数字に落とし込んで聞くといいでしょう。
■動機の深掘り
最後に、動機の深掘りではそのエピソードにおける学生の「モチベーション・リソース(やる気の源)」を探ります。 高い成果を上げるにはそのベースとなるエネルギーが必要となります。 そのエネルギーが何から発生しているのかを知ることで、「自社の仕事においても同様に成果を上げる為に頑張れそうか」を判断することができるのです。
以上のように表面的に見えやすい過去の結果だけに着目するのではなく、3方向の切り口を使って、具体的な中身や結果に至る背景を丁寧にヒアリングすることで、実績では判断できない、新卒学生のポテンシャルを見抜き、評価するのです。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は学生のポテンシャルや能力を見抜く為に、面接で押さえるべき3つのポイントをお話しました。
また、心理的なバイアスなどにより面接という選考手法は意識して行わないと精度が悪かったり、採用すべき人材を取りこぼしてしまう恐れがある点についてもお話しをさせていただきました。
選考手法として当たり前のように取り入れられている面接ですが、今回の内容を踏まえて今一度皆様の会社でも見直しのご参考にしていただければと思います。
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