1.アンパンマンや水戸黄門、スターウォーズがここまで流行ったわけ

今日は人事、というよりも、もう少し大きな「人」について最近、私が考えていることをお話しようと思います。

日本において、アンパンマンや水戸黄門、スターウォーズを知らない人はほとんどいないと思います。実際にアニメや映画を観たことはない人もいるでしょうが、名前自体知らないという人はほとんどいないのではないでしょうか。

国民的アニメのアンパンマンや時代劇の水戸黄門、世界的大作であるスターウォーズ。

全部、私は大好きです。特にスターウォーズは映画だけでなくドラマシリーズも全て観ており、新作が出るのをいつも楽しみにしています。

一体、なぜここまでヒットしたのか。そこには人間の心理として心地よく感じる共通点があります。私たちが好きなこうした映画やアニメは、純粋悪と純粋善の二元的です。

アンパンマンにはバイキンマンという純粋悪とアンパンマンという純粋善がいます。彼らはどこまでいっても悪と善であり、そこには曖昧なグレーゾーンは存在せず、互いにその役割を越境することはありません。スターウォーズも、宇宙という壮大な世界観の中で、ジェダイとダークサイドという善と悪の戦いはストーリーの中で一貫しています(色々な宇宙人が登場して互いに協力するという意味で、人種というダイバーシティは古くから受け入れられているものの、善悪の立場は決して交わらないのが面白いところです)。

善悪のはっきりした世界は単純明快で爽快です。娯楽として流行るわけはここにあると思います。ただ、あえて言えば、同じ心理で現実世界を見るのは危険だと考えています。

2.事実は小説よりも「複雑」

私たちは生きている限り、必ずどこかの社会集団や組織に所属しています。

その最小単位は家族です。そこから会社、地域、国家と次第につながりの輪が広がっていきます。問題は、その社会集団の内側から外の世界を見るとき、とてもシンプルに物事を考えてしまうことです。

単一の見方に固着した状態を「思い込み、偏見、ステレオタイプ」といい、自分と違う属性の人や違う集団の人に対して、これが一層働きやすくなります。

この国の人は皆こう。

女性は皆こう。

おじさんは皆こう。

ゆとり世代は皆こう。

高卒は皆こう。

B型は皆こう。

これらは全てステレオタイプによる見方であり、認知的複雑性の低いものの見方です。

認知的複雑性とは、他人に対してどのくらい複雑な次元性を使用して捉えているかを表す程度のことです。たとえば「血液型」や「学歴」といった単一の次元のみを他者にあてはめて判断する人は、認知的複雑性が低い。

巷ではマイペースだと言われるB型の人の中にも、当たり前ですが周りに気を遣いすぎるくらいの人はいますし、大卒よりよほど能力の高い高卒の人もたくさんいます。物事は、事実は、もっと複雑で多面的です。

こういった「シンプル思考」が国家の分断を引き起こし、民族の分断を引き起こし、組織内の分断を引き起こす。あらゆる争いの本質的原因だと私は思います。

研究では、認知的複雑性の低い子どもは、矛盾した情報を前に混乱したり、考え方の違う相手に反発したりと、ものの見方が単純化することがわかっています。子どもだけではありません。教育を十分に受けてきた大人でさえ、このシンプル思考に囚われています。

3.時に思惑が入る中で、『複眼思考』と『歴史を学ぶ』を持つことの重要性

このシンプル思考によって起こる社会の分断は、子どもたちの間であればグループ間のけんか、くらいで済むかもしれませんが、大人になればそれは最悪の場合、殺し合いに発展します。

そして時の為政者の思惑とプロパガンダによって、それは助長されてきました。

「あの国に住む人たちは●●なこともあるが、反対に▲▲な面もある。皆それぞれ複雑な価値観を持って生きているんですよ」というプロパガンダなど見たことがありません。

「あの国に住む人たちは皆こうなんです。だからあっちが悪くて、こっちは正義なんです」と世論をよりシンプルな方へ方向づけしてきたのは、古代から現代まで同じです。

もちろんこれは会社という単位で考えても同じでしょう。

国家間や組織間がどんなにグローバルに開かれた時代であっても、自分が所属する集団外の情報というのは、どうしても自分の集団内の情報よりも少なくなりがちです。

そんな状況の中で、私たちにできることは何でしょうか。

それは、シンプルを好む人間心理にできるだけ抗って、認知的複雑性を高める努力だと思います。それは物事をできるだけ複眼的に考えることです。

自分と異なる属性や集団外の人について考える時、まず、その人に対して瞬発的に浮かんだ印象(きっと●●だろう)とは逆の仮説を考えてみます(●●ではないかもしれない)。

そしてその仮説を支持する情報(●●でない理由がないか)を積極的に集めてみます。

ここまで行って、もう一度評価し直してみること。

これがシンプル思考ではなく、複眼思考を持つということだと思います。

私は歴史を学ぶのが好きです。特に近代世界史は、当時の状況を描く資料がたくさん残っており、事実は何だったのか、どんな思惑が働き影響していたのかを色々な角度から学ぶことができます。

世界の情勢が極めて不安定な昨今で、歴史を学ぶことの意義が問い直されていますが、できるだけ複眼思考をもって歴史を学ぶことと、複眼思考をもって今の世界を見つめることが、未来に向けて今私たちができることの一つかな、と思うこの頃です。

twitter facebook twitter facebook

安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

人気記事

  • 「人事は孤独である」ことの正体

  • 「人」について若造が語ることの重み

  • 僕たちの会社と仕事について

人と組織の可能性を
信じる世界を目指す
人材研究所では組織人事の問題解決を
通じて企業様の未来を応援しています。