1.良いことだけ聞いていても人生は楽しくない

僕自身のキャリアを振り返ってみて、いつも何が仕事を楽しく感じさせているのか。それは、自分が最後まで行った仕事に対して、お客さんや上司から毎回たくさんのフィードバックを受けているということでした。フィードバックの語源は、「Feed」+「Back」で、feedは餌付けするということ。フィードバックがモチベーションを高めるなどとよく言われますが、僕もその一人でしっかり餌付けされていたわけです。

しかしフィードバックは「いいね!」や「すばらしい!」という良い言葉ばかりではありません。もちろんミスした時にはきついネガティブフィードバックをされますし、中でも自分は「最高!」と思って作った資料が全然ダメダメだったなんてことのネガティブフィードバックは結構こたえます。

それでも、そのポジティブ・ネガティブどちらのフィードバックもあってこそ、今の自分があると思っています。人生山あり、谷あり。谷があるから山があるわけで、「ストレスは人生のスパイス」だと、ストレスの第一人者ハンス・セリエ教授も言っています。

でも、僕ももちろんそうですが、本当は誰もネガティブなフィードバックなんて受けたくないはずです。それでも、耳に痛いことからできるだけ遠ざかりたいと思いつつ、同時にどんなフィードバックでも受けたいと思っていたのは、唯一フィードバックによって仕事の手ごたえ感を感じることができるからです。

数多あるワークモチベーション理論がある中で、仕事の手ごたえ感がある、というのは非常に重要なモチベーション要因だと思います。それを担っているのがマネジメントの責任として部下へのフィードバックを行う上司でしょう。

時にネガティブフィードバックを行うことで部下が自分の課題を認識し、乗り越えるサポートをする。これが会社組織の中での上司という存在の第一義のような気がします。

但し、本来誰も聞きたくないはずのネガティブフィードバックは、そのやり方が肝心です。やり方によっては、受ける側の誤解や不信感を招くことにもなりかねません。

2.性格や能力ではなく、行動に対してフィードバックする

まずフィードバックで重要なのは、受け手の性格や能力ではなく、実際にとった行動に対してのみフィードバックを行うことです。これは、「人格否定は絶対アカン!」ということはもちろんなのですが、そもそも性格や能力は、見ている側の主観や印象に左右されることが多いためでもあります。逆に言えば、行動のみが「実際に見えている事実」なのです。

採用の世界でも、エビデンスベースドインタビュー(事実に基づいた面接)が重要と言われていますが、日常的なマネジメント場面でのフィードバックも同様です。

単に「あなたは不真面目だ」と伝えるのではなく、「この行動に問題がある」とフィードバックすることで初めて、本人が具体的な改善の必要性を自覚することができるのです。

このように文字にしてみると、さも当たり前のように感じますが、心理学では「行為者・観察者バイアス」というものがあり、人は他人の問題行動の原因を、その人の性格や能力にあると考える傾向があります。「あいつ、またあんなことをして…。不真面目な性格だからいつもああなんだ!」というセリフは、行為者・観察者バイアスによる誤帰属(誤って原因を解釈する)の常套句です。しかし、マネージャーをしていると、ついつい言いたくなってしまうような場面もあると思います。そのため、多くのマネージャーにとって、行動ベースのフィードバックはまさに「言うは易く行うは難し」なのではないでしょうか。

また、行動ベースのフィードバックを的確に行うためには、部下の日々の行動をきちんと記録しておくことが必要です。3か月前のことを「あの時のああいう行動!良くないよね!」と抽象的にいわれても言われている方は、「いつのこと、何のことを言っているの!?」と全く腑に落ちません。

3.ネガティブフィードバックが利く人と利かない人の違い

また、実は、そもそもネガティブフィードバックは、それを行うことが有効に働く人もいれば、そうでない人も存在します。正確には、ある志向を持っている人にネガティブフィードバックは刺さるのです。それは、ずばり「成長したい!」という気持ち、成長志向を持っている人です。

フィードバックについてのある研究によれば、フィードバックを受ける時のモチベーションは4つに分かれるらしいです。

1つ目は、自己改善動機。つまり自分の課題点を改善し、更なる成長を目指してフィードバックを受けようとする動機です。2つ目は、自己査定動機といって、自分のことをより正確に知りたい、という動機です。ここまでは良いでしょう。

しかし、3つ目からは段々やっかいになっていきます。3つ目は、自己高揚動機で、自分のことを高く評価したい、という動機です。「モチベ上げるためにとりあえず良いことだけ聞かせて!」という人です。

最後4つ目は、自己確証動機といって、自分が信じている自分の姿を確かめたい、という動機でフィードバックを受けようとするものです。ここまでくると自分に妄信的で、自分の見たい世界以外は見たくないという、フィードバックする側からするとなんとも大変な動機です。

もうおわかりの通り、ネガティブフィードバックが刺さるのは自己改善動機と自己査定動機の人だけです。むしろ積極的にネガティブフィードバックを求めるのは自己改善動機の人だけでしょう。

このように、「これからフィードバックする人は、どんな動機で話を聞くのか?」を考えてから、ネガティブフィードバックの出し分けを行う必要があります。

そして、自己高揚動機と自己確証動機の人にはずっとネガティブフィードバックができない(刺さらない)のかというと、安心してください。これら動機は不変的なものではなく変わりうるものです。

つまり、上司としては、フィードバックを行う前の日常から、自己改善動機や自己査定動機を持つような動機づけを行っていく必要があるでしょう。具体的には、その仕事の面白さを意味づけしたり、目標をスモールステップに分け成長実感を得させたりすることで更に成長したいと思わせるような働きかけなどが良いかもしれません。

もちろん、ネガティブフィードバックができる人間関係が、日頃より築けていることが何より重要です。「この人になら、厳しいことを言われても納得できる」という信頼関係が築けていなければ、どんなに具体的で良いアドバイスをしても心に刺さることはないでしょう。

本当は誰も聞きたくない耳に痛いことですが、彼(と会社)のためにどうせ伝えなければならないなら、ちゃんと本人にグサリと刺さって、かつ前を向けるようなフィードバックをする必要があります。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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