1. ストレス問題を扱っている人事がストレスにやられてしまう現状
人事という仕事は、全職業人口の内、1%程度しかいないと言われています。
確かに、数多ある企業の中には、一人で人事を担っている方、他の管理部門と兼務で人事を担っている方などもおり、人員が十分に足りている人事部というのはあまり聞いたことがありません。直接的に売上を生まない間接部門ということで、昨今の人員削減の波にさらされており、どの組織でも人事部員は年々減ってきているのもあるかもしれません。
また人事は実は結構、転職率が高いように思います。人事という仕事は専門職のような一面もありますし、上記の理由によりそもそも職業人口のパイが少ないというのもあるため、引く手あまたな職業です。そのため転職もしやすいのも事実です。
しかし、人事の転職率が高い理由は、そういった引く手あまたな市況感以外にもあるように思います。それは、ストレス過多な状態でバーンアウトしてしまうケースです。
人事の仕事の一つは、職場のハラスメント対策やストレス対策です。鬱になってしまう現場社員を出さないために、現場管理職と力を合わせて日々あれこれと施策を考え、職場環境を整えたり、個別の事例に対応していたりするのが人事の方々です。そんなストレス問題を扱っている人事自身が、ストレスにやられてつぶれてしまう。ひいては早期離職につながっている。そんな状況があると思うのです。
どうして人事がストレスにやられてしまう原因はどこにあるのでしょうか。
2. 成果が曖昧かつ時間がかかる
まず純粋に業務量過多の方が多いと思います。これはそもそも人事部の人数が少ないから、ということですが、昨今はアウトソーシングなどの活用も進んでおり、比較的解決策はシンプルかもしれません。
しかし、これ以外の原因が、まさに人事という仕事の特性に紐づく、根本的な原因だと思うのです。まず、人事の仕事は成果が見えにくいということです。例えば採用一つとっても、目の前の人材を採用したことが会社にとって良かったか否かは、入社後すぐにわかることは稀です。3年後に花開くかもしれませんし、5年後、もしくは10年後かもしれません。仮に採用した新人が現場に配属後すぐには成果を出せないでいると現場から「なんでこんなやつ採ったんだ」と言われるのは人事です。その新人が5年後には会社一のハイパフォーマーになったとしてもです。新人がどの時点で大成したら、その採用は成功したと言えるのでしょうか。これは難しい問題です。
また新しい人事制度を導入したとして、最初は新しいやり方に慣れず現場から少なからず不満が挙がります。人事制度の構築は経営層と一緒に作成するものですが、その不満をまず最初に受けるのは、矢面に立っている人事です。
このように成果が見えにくい、かつ見えるのも時間がかかる。これが人事の仕事です。
3. 人事の仕事は「感情労働」
そして人事の仕事は、日々の労務管理のオペレーションを回すだけでも、経営層と人事制度を考えるだけでもなく、現場を顧客とした「感情労働」だと思うのです。
感情労働とは、相手(顧客)に気持ちよく感じてもらうために、自分の感情を時に抑圧して業務に臨む労働のことです。サービス業や営業なども同様です。
例えば、現場でハラスメントの問題が起きた時に、どう考えても一方が悪い、というシンプルな問題は現実では少ないでしょう。実際は、被害を訴えた側と、訴えられた側のどちらも言い分があり、人事はその仲裁に入らねばなりません。この時重要なのは、主観に基づいて一方に肩入れをしてはいけないということです。状況の全貌が正確に把握できるまで聞き取りが必要で、その間に人事が両者から叱責を受けることも多々あります。このように 感情労働は、精神を消耗させます。
4. あくまで「人事」という役割と捉え直す
現場と経営、上司と部下、ある部署と別の部署、候補者と面接官。このすべての間に入り、人事というセンシティブな問題を解決していかなればならないわけです。これに加えて、頑張ってもいつ報われるか見えない状況と、日々の業務に忙殺される状況が重なったら、普通の人はつぶれます。これだけ見ても、人事の方々には尊敬の意を表します。
そんな人事の方々がストレスにつぶれないために、考えてほしいのは、シンプルではありますが、あくまで「人事」という役割で取っている行動であって、あなた自身に責があるわけでもなく、あなたの人格が否定されているわけでもないということです。
ストレスマネジメントの一つに、情動焦点型コーピングといって、ストレス状況に対する捉え方、考え方を見直すという方法があります。人事も人間ですから、各問題に対して個人的に感じること、思うこともたくさんあると思います。それはそっと内に秘めながらも、決してそういった感情が沸き起こること自体を自分で否定してはいけないのです。
あくまで役割として状況を俯瞰的に見てみると、きっと心も楽になり、人事という素晴らしい仕事に改めて向き合うことができるのではないでしょうか。
安藤健