1.社員同士の「関係性」にアプローチする組織開発

人事の世界でよく使われる「人材開発」と「組織開発」という言葉。最近言われ始めた言葉では決してないのですが、この2つの違いは何でしょうか。

私は人事の世界に入ってこの言葉を知った時、率直にこう感じました。「組織は人材が集まって成り立っているのだから、人材を開発すること、それすなわち組織の開発につながるのではないか。だったら人材開発も組織開発も一緒じゃないか」と。

そもそも、組織って何でしょう。患者さん一人ひとりへのアプローチを行う臨床心理の現場にいた僕には、これまた無機質で、血の通っていないただのハコのようなもの、というイメージがありました。

「俺たち、同じ組織の仲間だよな!」というのは、目的を同じにした集団に所属している認識を頭の中で共有しているだけです。いやいや、皆が集うオフィスというのがあるじゃないか、と思うかもしれませんが、コロナ禍でフルリモートワークとなった会社もたくさんある今では、「うちの会社=オフィス」とももう言えません。

確かに組織というのは、公式にはただのハコで、しかも目に見えません。

ただ、そこにはきちんと血が通っているのもまた事実です。

では、組織というハコに通っている血とは何かというと、そこで働く人々の「関係性」であると思うのです。

人材開発では、組織に属する社員一人ひとりに対して、個別に何らかの手を打ち、その人自体の能力を高めていくのを目指しています。一人ひとりに合わせた研修を行ってスキルを伸ばしたり、アサインメント(配置)を考えたりするのはまさに人材開発の領域です。

これに対し、組織開発では、社員一人ひとりというよりもその集合である組織全体に目を向け、組織を構成している社員同士の「関係性」や、そこから生まれる「相互作用」に着目している点が異なります。

このように、世の中が人材開発から組織開発へと次第に着目する視点が移っていった背景としては、個人個人にアプローチするだけでは組織の問題は解決しない。という壁に多くの企業がぶつかっているからかもしれません。

例えば、組織内である事故が発生したとします。この事故が起きた原因を、事故を起こした当事者本人の能力や意識にのみ起因させ、“二度と事故を起こさないように社員への教育訓練を徹底しよう“、といった解決策だけを図るのでは、少し状況が変わった時に同じ事故が防げなかったり、そもそも実はその事故は当事者の能力・意識不足が原因でなかったりしているのかもしれません。

そうではなく、事故が起きるまでの流れを1つのシステムと捉えて、事故を取り巻く環境(重大な事故につながる兆しを発見しても上司に言いにくい関係性や仕組みであった、等)にまで着目し、より包括的な視点から解決策を取っていく、というのが組織開発的なアプローチとなります。

このように、組織開発においては、その人本人だけでなく、人と人の「関係性」に着目しているのです。

2.組織におけるフォーマルとインフォーマル

先ほど挙げた組織の無機質なハコの部分は「フォーマル組織」と呼ばれます。対して社員同士の血の通った関係性からなる組織の部分は「インフォーマル組織」と呼ばれます。

フォーマル組織とは、組織の構造、権限や責任、階級や指揮命令系統などが明示されたいわば公式組織のことであり、組織図に示された組織のことです。

一方で、インフォーマル組織とは、フォーマル組織の裏で動く非公式の組織のことです。いわば人間関係でつながった従業員ネットワークのことを指します。

面白いのが、フォーマル組織は会社が意図的に作った組織ですが、インフォーマル組織は、必ずしも意図的ではなく自然発生するものということです。

例えば、飲み会の席やたばこ部屋(ひと昔前かもしれませんが)などでは、普段業務上繋がりの薄い他部署の社員(時には重役など)とも知り合い、話す機会が生まれます。そこでできたネットワークによって自分の仕事にアドバイスや新しいアイデアをもらったりして、助けられた経験はないでしょうか。

このまさに非公式のネットワークが、インフォーマル組織なのです。

インフォーマル組織は、フォーマル組織と表裏一体で必ず組織の中に発生します。

そして、インフォーマル組織は、フォーマル組織を補完する重要な機能を持っているのです。

3.採用、定着、育成すべてにインフォーマルネットワークが重要

インフォーマル組織は、非公式で組織図にも記載されていない組織ですが、組織開発において非常に重要なキーワードです。

というのも、採用、定着、育成、評価といった人事の諸機能において、フォーマル組織、つまり公式の仕組み・制度だけでは実際にはうまく回らないからです。

例えば、採用では、新卒内定者を入社までフォローするのに、採用担当者が一人ひとり個別フォローしても、内定者全員へ均等かつ深いフォローをするのは難しく、なによりマンパワーが恐ろしくかかります。そんな時、内定者同士で引き合わせ、インフォーマルネットワークを作ってもらうことで、ピアフォロー(内定者同士でお互いにフォローし合うこと)状態を作れれば、後は勝手にフォローし合ってくれるでしょう。

また育成場面では、会社の公式の研修プログラムで教えられることにも限界があり、現実には、現場で先輩や上司からコツやノウハウを教えてもらうことの方が多いでしょう。その際も、ベテランとのインフォーマルネットワークを作っておくことで培ってきた秘伝をこっそり教えてもらったり、他部署から困っている時に助けてもらったりする可能性も高まります。

定着の観点からもインフォーマルネットワークは重要です。採用時の内定者同士のピアフォローもそうですが、入社後のインフォーマルネットワークもまたピアフォローを促進します。上司・人事部が気づくことのできない社員の小さな異変に気づき、「なんだ、最近元気がないけどどうかしたの?」と周りがフォローすることで、離職を思いとどまることにも繋がります。なにより誰にも打ち明けられずに一人で悶々と悩んでしまう状態が最もよくありません。

このように、実は非常に重要なインフォーマル組織(インフォーマルネットワーク)ですが、現状ここに意図的に手を打っている人事の方は少ないかもしれません。

4.「良い関係性」を促進する仕掛けをいかに作れるか

確かに、公式のフォーマル組織とは異なり、インフォーマル組織は社内人物相関図のようなものを作らない限り、組織図のような形で中々明文化することができないため、施策を打ちづらいかと思います。

しかし例えば、先の例では、たばこ部屋などを挙げましたが、今の時代でいえば上司を一番上座におき同じ部・課の人間全員が一島に固まっている、というような座席配置ではなく、他部署・役職に関係なく好きな席で仕事ができるというような「フリーアドレス制」を作ることも、インフォーマル組織を作るのを促進する仕掛けになるかと思います。

また「社内部活・サークル」「運動会」といったレクリエーション活動なども実はインフォーマル組織を作る仕掛けであったりします。

インフォーマル組織は、時間はかかるが一度築くことができればじんわりと効果が効き続ける漢方のようなものです。外科手術で大胆に組織を切って張ってするフォーマル組織の構造改革とは異なります(その分こちらは即効性がありますが)。

なにより、目に見えない分他社に容易に真似できないため、組織の競争優位性にもつながります。

組織開発を担う人事としては、インフォーマルネットワークを促進する仕掛けをいかに作れるか、が今後の組織の命運を握る重要なファクターになるかもしれません。

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安藤健

安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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