1. どんな人をどんな風に採用すべきかが明確でないと採れない時代
まず初めに、そもそもなぜ採用にマーケティングの考え方が取り入れられるようになったのか考えてみましょう。その背景としては、やはり若手層に顕著な人材難とそこからくる採用競争の激化が挙げられます。
まだ労働力人口が多く、採用が買い手市場であった時代は、とりあえず求人を出し、応募があるのを待って集まった候補者の中から、なんとなく良さそうな人を採用する、という採用活動でも十分に人が採れていました。
しかし、現在では、例えば20卒新卒の有効求人倍率は1.83倍と、候補者にとってはかなりの売り手市場であり、企業側は膨大な採用費をかけてやっと一人採用する、といった熾烈な人材獲得競争が繰り広げられています。
このような状況で、まさに今は「どんな人をどう集め、どんな情報を提供して、動機づけしていくか」といった採用戦略が明確でないと採れない時代なのです。
2.まずは採用基準である求める人物像を決めること
採用活動をする上で、もっとも重要かつ最初に取り組むべきこと、それは採用のターゲットとなる自社の求める人物像を決めることです。
求める人物像は、大きく分けて志向・能力・価値観・属性からなります。志向・能力・価値観についてわかりやすく記載すると、以下のようなイメージです。
- 志向:~したい、~を目指している
- 能力:~できる
- 価値観:~のように考える、~に重きを置く
求める人物像は採用基準となり、実際に選考が始まると合否ジャッジの判断軸となります。面接の評価シートや適性検査のスクリーニング基準に活用されることが多いでしょう。
多くの企業でこのように、採用基準として使われている求める人物像ですが、実は、採用マーケティングにおいては「ペルソナ」を考える際に非常に重要なものでもあります。
3. 求める人物像を「ペルソナ」にまで落とし込む
ここまでの時点で、求める人物像は、「知的好奇心が旺盛」、「対人関係維持力が高い」、「Python(プログラミング言語)ができる」、「TOEIC800点以上」等、抽象的な要素の集まりであることが多いです。
しかし、採用マーケティングの観点からは、この求める人物像が固まった後、できればそのままではなく、「ペルソナ」にまで落とし込む必要があります。
「ペルソナ」とは、マーケティング用語で、「ある特徴を合わせ持った架空の人物像」を意味します。マーケティングの世界では、自社の商品やサービスを利用する顧客は、どんな人物で、何を考え、どう行動するかをまずイメージします。例えば『23歳、女性、大学生、東京都在住』などの細かく「ペルソナ」を設定し、この「ペルソナ」のニーズを満たすよう商品の企画や設計をしていくのが商品開発などで成功するために非常に重要だと言われているのです。
例えば、駅中などでスープを販売する『スープストックトーキョー』が成功を収めた背景には、『37歳、女性、都心で働くキャリアウーマン・・・etc.』というように徹底的なペルソナマーケティングを行い、この架空の彼女を満足させる形で、メニューや店舗の立地、雰囲気を考えていったためとされています。
実は、採用においても同様に、求める人物像の「ペルソナ」化を行うことができます。
まさに、採用ターゲットは「どんな人物で、どんな就職活動を行うか」を考えるのです。
その際、「ペルソナ」をイメージするポイントとして以下6つが挙げられます。
- どの程度の就職活動量か
- いつ頃から就職活動を開始するか
- 主に利用する情報収集チャネルは何か
- インターン、イベント、新しい採用手法等に参加しそうかどうか
- どんな価値観を持ち、どんなメッセージが刺さるか
- 効く動機付け方法は何か
求める人物像は、先ほど述べたように、しばしば抽象的な要素の積み重ねで成り立っていることが多いのですが、これを統合し全体論的な視点から見てみるのが「ペルソナ」化です。
4. 「ペルソナ」化が必要な理由
活動時期・場所の狙い撃ちができる
しかし、そもそも、なぜこのような「ペルソナ」化が採用においても必要なのでしょうか。
その理由として、大きく分けて3つ挙げられます。
まず初めに、採用ターゲットとなる人材が、最もアクティブに就職活動をしている時期を特定し、どんな採用チャネルを最も利用しているか目星がつくからです。
冒頭述べたように、現在の採用市場では、ただやみくもに求人を出し、待っているだけではターゲットとなる人材を見つけることはできません。また、採用活動にかけるリソース(人員、予算)にも限度があり、限られたリソースの中で、いかにターゲットを獲得できるかが、採用担当者の至上命題となっています。
そのような中で、限られたリソースを集中投下し、効率的に採用活動をするためには、「ペルソナ」から活動時期や活動場所(採用チャネル)を想定することが非常に重要なのです。
効果的な訴求ができる
次に、「ペルソナ」化が重要な理由。それは、彼らがどんな価値観を持ち、それゆえどんなメッセージが刺さるか、がわかるためです。
採用の母集団形成手法は、ナビなどで求人広告を出し、候補者の応募を待つ「オーディション型」と、こちらからスカウトメディアなどでターゲットを特定し、スカウトを送る「スカウト型」に大きく分かれます。
この時、「スカウト型」の場合はどういった人材にスカウトを送るかをまず特定する必要があるため、「ペルソナ」化が活きることはもちろんですが、実は「オーディション型」のナビなどで求人広告を出す際にも、数ある自社の魅力のうち、何を前面に出して広報していくか、を考えるために「ペルソナ」が活きるのです。
ナビでは、本来、こちらから応募してくる人材を選ぶことができない中で、“自社のペルソナはこういった価値観を持っているから、こんな情報を気にしている。なので、自社のこんな部分をアピールしていこう”と、より「ペルソナ」に刺さる効果的な採用広報ができるようになるのです。
そして、効果的な訴求ができるのは、母集団形成の段階だけではありません。候補者は、応募した後、1次面接、2次面接と選考が進む中で、次第に入社動機を高めていきます。
この過程で、いかに効果的に訴求できるかが、最後に内定承諾をしてくれるか否かにかかっているのです。そのため、「ペルソナ」化によってどんなメッセージが刺さるかを明確にしておくことで、選考中、もしくは内定期間中に、より効果的な訴求が可能となります。
面接官同士の目線すり合わせができる
そして、最後にもう一つ、「ペルソナ」を設定する非常に大きな理由があります。
それは、面接官同士で採用基準についての目線をすり合わせるためです。
先ほど述べた通り、求める人物像は、ともすれば抽象的要素が中心で、往々にして各要素の集合で表現されたままになっていることがあります。これに対し、ペルソナは、全体論的なイメージであり、あたかも実在するかのような“みずみずしい”人物像です。
とすると、実際に人物評価をする際、求める人物像を「ペルソナ」化するという作業を挟まなければ、抽象的な採用要件に対して、面接官同士で違うイメージを持ってしまうのです。
特に、日本語は曖昧多義的な言葉が多く、しかも採用基準に使用されている言葉というのは、ことさらこういった言葉が多いのです。
例えば、“頭の良い人がうちの採用基準だ”とした場合、この「頭の良い」というのはどういうことでしょうか。「ペルソナ」化を挟まずに、「頭の良い」という表現のままにしてしまうと、ある面接官は、『様々な具体的事実の中から、本質を取り出すことのできる力』が「頭の良い」こととイメージしており、別の面接官は『1つの本質から、様々な具体例を表現できる力』が「頭の良い」こととイメージしているかもしれません。実はこれら2つの力は真逆の力ですが(前者は抽象化力、後者は具体化力などと呼ばれます)、どちらも「頭の良い」ことを意味しています。
このように、具体的なイメージの共有が出来ていないまま、各面接官が目の前の候補者の人物評価をしてしまうと、同じ候補者を見ても、A面接官は合格、B面接官は不合格と評価するようなことになってしまい、これは絶対に採用面接で避けなければならないことです。
そのため、ぜひ面接評価において面接官の目線をすり合わせるためにも、求める人物像を「ペルソナ」化することでレベル感、言葉の定義を合わせておくことが重要なのです。
その他、しばしば求める人物に挙げられる「ストレス耐性」、「主体性」、「コミュニケーション能力」などの言葉も、様々な捉え方ができる多義的なキーワードですので要注意です。
7. まとめ
いかがでしたでしょうか。
これからの採用活動は、マーケティングの観点を活かして「どんな人をどう集め、どんな情報を提供して、動機づけしていくか」を考えていくことが採用成功のために必須であることをお話しました。
また、その中でも、採用ターゲットを“みずみずしい”人物像にまで落とし込んだ「ペルソナ」化することで、①活動時期・場所の狙い撃ちができる、②効果的な訴求ができる、③面接官同士の目線すり合わせができる、というメリットがあることをお話しました。
この「ペルソナ」化、ぜひ皆様の会社でも考えてみていただければと思います。
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曽和利光