人事部が組織の「チェンジ」にとん挫しないためにできること

1.なんのための「チェンジ」か?

組織に所属しているビジネスマンなら誰でも「これからの組織は積極的に、かつ柔軟にチェンジ(変革)していかければならない」という言葉を日常的に聞いていると思います。

「チェンジ、チェンジ」とあまりに色々なところで耳にしすぎて、なんだかすべてを急かされているような気がしてしまうのは私だけではないと思いますが、ふと立ち止まって考えてみます。

そもそも、組織が変わらなければならない理由って何でしょうか?

すでに聞き古した言葉ではありますが、急スピードで進む技術革新や次々に発生する社会不安と共に、今やあらゆる産業が変化・変革を求められています。ここ最近で最も大きな社会不安であるコロナ禍以前にも、IT企業が金融業界に突然参入したり、電気メーカーが突然自動車業界に参入したりなど、かつてはどんなに安定的で参入障壁が高いと言われた業界といえども、今や異業種参入や情勢変化などにより胡坐をかいて座ってることはできないのは確かです。

事業の戦略が変われば、当然組織もそれに向けて柔軟な変革が迫られます。

私たち一人ひとりが変わるのでさえ心理的・身体的に相応の負荷がかかります。これが、その人間が複数集まる組織が変化するとなれば、なおさら負荷が大きくなります。

但し、今のビジネス環境をみると、そうはいっても組織だけ頑なに変化をしない、というわけにはいきません。

2.二つの「チェンジ」の在り方

少し別の観点から組織における「チェンジ」を見てみましょう。

「チェンジ」、つまり変革というのは、まさに組織における課題解決を行うことです。

では、組織が抱える組織課題はどんなものがあるのか、というと、大きく分けて2つに分けられます。

一つは「問題解決型の変革」。例えば採用で全く人が採れない、退職率が高すぎて事業継続が難しい、など今組織で起きている由々しき問題を、解決しようとするのが問題解決型の変革です。

一方で、特に由々しき問題はないが、事業にとっての理想な組織や企業のビジョンを叶えるために、現状を変えていこうとする変革が「理想実現型の変革」です。

これらはいわば、マイナスから0に戻すような変革(問題解決型)と、0からプラスの状態へスケールさせるという変革(理想実現型)とも言い換えられます。

そして、組織におけるこの両方の「チェンジ」を担うのが人事の新しい役割になってきているように思います。

これまでの人事といえば、経営トップから降りてきたミッションの元で、労務管理をひたすらこなすオペレーション中心の管理セクションであった印象が強いでしょう。一方で、今後は経営と同じ視点で、事業を推進するために組織を主体的に変革していく、まさに「チェンジマネージャー」としての人事が求められ始めています。

しかし、「チェンジマネージャー」である人事の皆様を困らせているのが変革を拒む派閥の存在です。事業を進める組織はあくまで個々の人間の集合です。当然、組織の中には変革を望む人もいれば反対派もいるでしょう。

こういった根強い反対派がいる中でも変革推進のためにリーダーシップを発揮していかないといけないとなると、途中でとん挫しないために、どんなことに気を付けたら良いでしょうか。

3.危機感を作り、できるだけ人を見て法を説く

私は、そもそも、組織の「チェンジマネージャー」をなぜ人事がやらねばならないのか、という疑問に対して、社員一人ひとりのことを最も深く知っている(または知りうるポジションにいる)からだと理解しています。

実際、様々な企業で変革がうまく浸透しない理由を突き詰めてみると、従業員のパーソナリティを考えない浸透のさせ方をしているためことが多いです。

最終的には、変革を組織に定着させる主体となるのは大多数を占める現場です。そんな彼らはどんなことに価値を感じ、何をモチベーションに仕事をしているのか、何が気持ちよくて何を気持ち悪いと感じるのか。変革にあたっては、こういった彼らのパーソナリティを考慮した伝え方、施策の打ち方をするのが何よりも重要であり、それを把握・管理しているのは誰でもない人事なのです。

そしてもう一つ、変革がうまく浸透していない理由は、適切な変革のステップを踏んでいないということです。公明正大な変革をトップが唱えても、実際には浸透、機能せずに頓挫してしまう、もしくはより組織がかき乱されるようなことになってしまう最悪のケースもしばしば見られます。そこに足りないのは、何よりもまず「変革が必要だ!」という危機感が現場に共有されていないことだと思います。

実は「チェンジマネージャー」という言葉の元にある「チェンジマネジメント」というのは元々アメリカで生まれた概念です。一言で言うと組織の変革を効率よく成功に導くための体系化されたマネジメント手法のことです。特に有名なのは企業変革の世界的権威であるジョン・コッターが打ち立てた8つのステップです。

このステップの中で特に重要なステップは、先ほど挙げた危機感を現場に共有するという「①危機意識を作り出す」ことかと思います。

結局、人間は「こうなったら、こんな良い事がある」か「こうならないと、こんな悪い事がある」のいずれかでしか動かない存在です。つまり、行動をとるためのインセンティブが必要なのですが、こと変革の場合は、問題解決型の変革の場合でも、理想実現型の変革の場合でも「このままではいけない!」といった危機意識を十分に認知してもらわなければその後に予定しているステップは有効には働かないでしょう。むしろ理想実現型の場合は、危機が実際に目の前にない分、変革推進が難しく、“今は良いかもしれないが、現状維持は緩やかに死んでいく”という危機意識をいかに醸成するかが変革の成否を分けます。

そしてこの危機意識を得てもらう際に何より重要なのは、すでに挙げた従業員のパーソナリティを加味することなのです。組織はあくまで「人」で構成されています。

つまり自社が抱える課題の形が問題解決型、理想実現型どちらであっても、突き詰めると「人」の問題に帰結するのです。「人を見て法を解け」という言葉の通り、その人に最もふさわしい伝え方で、説得していくことが、周り道をしているようで組織が変わる最短ルートであるような気がします。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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