1.コロナ禍という高ストレス環境

出口の見えないコロナ禍が続く今、政治系ネットニュースの荒れたコメント欄などを見ると、少なからず皆相応のストレスを抱えていることがわかります。ずっと昔から、現代はストレス社会だといわれていますが、特にこのような先行きが全く見えない社会不安が世の中全体を取り巻く状況下では、それぞれがこのストレスにどううまく対処していくかが試されている期間ともいえるでしょう。

ストレスは、元々物理工学の世界で生まれた言葉です。例えば、風船を指で押すとへこみますが、指を離すと勝手にもとの風船の形に戻ります。これと同様に、人間に対するこういった外からの圧力とそれによる内部状態の変化のことをストレスと呼びます。

しかし、ストレスをこのように捉えると、日常生活の様々な場面で「ストレスが溜まる」=「不快感の蓄積」というニュアンスで使われていますが、実際はネガティブな出来事だけがストレッサー(ストレスの元になる出来事)になるわけではなく、実は結婚や就職など本来喜ばれる出来事においてもストレスは発生しうるものだということがわかります。

実際に、ホームズという研究者は、以下の表のように人生のライフイベントごとにかかるストレスの大きさを示しています。「配偶者の死(100点)」や「解雇・失業(47点)」が大きなストレスになるのはイメージがつきやすいですが、「結婚(50点)」や「クリスマス(12点)」でさえ(!)、相応のストレスがかかるということは、私たちが生きている以上はどんな出来事でされストレスは必ず付きまとうものであると理解できます。ちなみに現在のコロナ禍は、ホームズの表でいえば「生活条件の変化(25点)」と人によっては「経済状態の大きな変化(38点)」があたりそうです。このようなストレスがすでに1年半以上もかかり続けているのですから、多くの人がそろそろ疲弊してくるのも無理はなさそうです。

人事部としても、社員がこのようなストレス環境を無事乗り越えられるように今後、自社の取り組みとして何かできることはないかを考えていく必要があるでしょう。

そのためには今一度「ストレスに強い」とは一体どういうことか?を理解しておく必要がありそうです。

2.ストレスの強さには2種類ある

まず「ストレスに強い人間」といった時、多くの人は、具体的にどんな人物を想像するでしょうか。まず1つは、そもそもどんな困難なことがあってもストレスを感じにくいタイプです。漫画の主人公で言えばワンピースのルフィのような細かいことは気にしない、いつでも明るい人物を想像します。このタイプはいわばストレスに対しての“鈍感力”が高いとも言えます。ストレスは元々物理工学用語であると先ほど述べましたが、物質でいうと「鉄」のようなイメージでしょうか。堅い壁に覆われており、普通の人がストレスに感じることにもびくともしない人物でしょう。これがどちらかというと現状の世間一般のストレスに強い人の主なイメージを形作っているように思います。

しかし、実はストレスの強さはもう1種類あります。それは、ストレスは受けるが、受けた後の立ち直りが早いタイプです。漫画の主人公で言えば、ドラえもんののび太タイプでしょうか。のび太は毎回ジャイアンにいじめられ、泣いていますので、ストレスにはめっぽう敏感なタイプですが、次の日にはケロっとしており、ストレスを引きずりません。このタイプはストレスに対する“回復力”が高いタイプと言えそうです。こちらは先ほどの「鉄」タイプと対比して、ストレスを受けてもしなやかに元に戻ることのできる「竹」のイメージです。竹は雨風に揺さぶられても、張力があり、力強く跳ね返します。ちなみに、のび太は毎回ジャイアンに仕返しをするために、ドラえもんに助けを求めていますが、これは学術的には「ソーシャルサポート(自分から周囲へ助けを求めて問題を解決する行動)」という立派なストレス対処法です。いつも弱弱しく頼りない印象ののび太ですが、実は彼なりのストレス対処法を確立しているわけですね。

3.鈍感力が高い人材よりも回復力が高い人材を

さて、このように2種類に分かれるストレスの強さですが、一体どちらの方がより望ましいのでしょうか。つまり、人事としては、どちらのタイプの人材をすすんで採用したり、社内のストレスマネジメント能力開発の要件としたりすべきでしょうか。

結論、私はストレスの鈍感力が高い人材よりも回復力が高い人材の方だと思います。

その理由は2つあります。

そもそも「人の悩みはすべて人間関係の悩み」と心理学者アルフレッド・アドラーが述べているように、ストレスの原因には対人関係が大いに関係していると仮定した際、ストレスに鈍感であるということは、感受性が低いとも言えます。感受性が低いということは、他者の気持ちに鈍感であるということ。周囲の気持ちを慮れなければ、たとえ自分はストレスを感じないとしても、気づかないうちに他者を傷つけたり、困らせてしまったりしていることも多いでしょう。これはビジネスの世界では致命的です。

2つ目には、ストレス鈍感力が高い人は「鉄」のイメージのように、並大抵のストレスはそもそも受けつけませんが、自分のキャパシティを超える過度のストレスにさらされたり、継続的にストレスを受け続けたりすると、どこかでぽっきり折れてしまいます。そして鉄は一度折れたら、二度と元に戻ることはできません。これは人間でも同様で、今までストレスを感じる素振りが全くなく元気に振舞っていた人物が、何かの拍子に急にバーンアウト(燃え尽き)したり、うつ病になってしまったりすることは残念ながら人事部の皆さんもよく目にすることだと思います。

一方で、ストレス回復力が高い人は、うまくストレスを受け流せる、ストレスを受けたとしても、跳ねのけることができる人です。これをストレスと同じ物理工学用語で「レジリエンス」と呼び、近年ストレスマネジメントの世界で注目を浴びているキーワードです。

人間に対して、外から加わる力が「ストレス(またはストレッサー)」、それを跳ね返そうとする力が「レジリエンス」なのです。

世界全体として、日本全体として、そして会社全体としても先行きが見えず不安が渦巻く今、私たちに必要なのは、のび太のようにストレスにくじけそうになっても、そこからいかに早くしなやかに立ち上がれるかという、「竹」のようなストレスマネジメントなのかもしれません。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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