1. 日常に潜む「最近の若者」論者

最近では、10歳以上も年が離れたいわゆる「年上部下」を持つ上司の方も増えてきているのではないでしょうか。昔のような年功主義ではなく、純粋な本人の発揮能力や成果による任用が広がれば広がるほど、こうした動きは今後ますます進んでくると思います。

そうした中で、特にマネジメントに苦労するのが、頑固なベテランタイプの年上部下です。上司のアドバイスに耳を傾けず、昔上げた功績をかざして、自分の価値観や考え方を周囲に押し付けてしまう。こういった頑固なベテランタイプは、昔はハイパフォーマー社員だった方も多く、過去の自分の成功体験や、自分たち世代が会社をここまで作ってきたんだという自負があるため、中々、周囲に耳を傾けません。それが、自分の上司に、何歳も年の離れた若者がなったとあれば、心中穏やかではないのはよくわかります。

そんな彼らの口癖は「昔はこうだった。最近の若いやつは、うんぬんかんぬん(ネガティブワード)」です。

今回は、この「最近の若いやつは…」という言葉、本当に信じていいの?ということを取り上げたいと思います。

2. 世代という類型論的思考

「最近の若いやつは…」の背景にあるのは世代論です。

Z世代、ミレニアム世代…

氷河期世代、ロスジェネ世代…

バブル世代、団塊世代…

これまで、さまざまな世代論が昔から現在に至るまで、良くも悪くも語られてきました。

こういったタイプごとに人間を一括りにする考え方を、心理学では「類型論」といいます。

類型論とは、ある共通項を持った集団を一括りにして、特徴づけることです。こうすることで有象無象の人間もいくつかのタイプに分類できるため、理解しやすい、というメリットがあります。反対に「特性論的思考」というのは人間の1つ1つの特性を捉え、いくつかの特性の組み合わせによって人格を理解しようとするものです。こちらの方が個別性がありますが、千差万別で理解が難しいともいえるでしょう。

ちなみに、血液型性格診断なども類型論です。「A型の人は几帳面」「B型の人はマイペース」などと言われますが、血液型による性格特徴というのはまったく学術的な裏付けがありません…(日ごろから仕事で適性検査などを扱う人事の方にも、いまだに血液型性格診断を本気で信じている方がたまにおり、毎回驚きます…。適性検査は特性論や類型論に基づいて作成されています)。

話を戻すと、世代論とは類型論。つまり、「生まれた年を一定の幅に括り、彼らの置かれた社会環境に起因する共通した文化的特徴と価値観を示す類型」ということでしょうか。

これに代表される言葉が、「最近の若いやつは、うんぬんかんぬん」なわけです。

3. 自分を守るための悲しい逃げ口上

この言葉、どんな文脈で使われるかというと、冒頭の年上部下と年下上司のケースのように、旧世代と新しい世代それぞれの価値観がぶつかった時、旧世代が新世代に対して使う言葉かと思います。

ここではあえて新・旧と呼んでいますが、新世代もやがて時が立てば必ず旧世代になります。いつの時代も、どんな場所でもこのサイクルは繰り返されていくのです。

しかし、旧世代が使う「最近の若いやつは」は一体どんな思いをもって使われ、繰り返されていくのでしょうか?

まず、おそらく「最近の若いやつは、うんぬんかんぬん」という言葉の後には、(だから理解できない。間違っている。)というニュアンスが含まれているように思います。

ということは、旧世代の心理的防衛機制から生まれる言葉かもしれません。

防衛機制とは、受け入れがたい状況、または潜在的に危険な状況に晒されたときに、それによる不安を解消・軽減しようとする無意識的な心理メカニズムです。

この概念自体は、心理学者ジークムント・フロイトの娘であるアンナ・フロイトが整理した100年くらい前のものですが、普遍的なもので、人間の“性(サガ)”を表しているようです。

まさに旧世代が、自分の「勘と経験」が通用しない状況に立った時、「これまで信じてきたものを壊されるくらいなら最初から“見ない”、“聞かない”、“理解しない”」という反応が生まれ、とっさに「最近の若いやつは…」が口から出てしまうのでしょうか。

そしてもう一つ働いているのが、「過度の一般化」です。

「目の前の人がこうだったから。自分の知っている人がこうだったから。」という限定的な事例だけで、「同じ特性を持つ人間は、ほかもすべてそうに違いない」とみなしてしまうことです。

これは誰しもが持つ認知バイアスの一種ですが、ともすれば尚早な判断につながり、ある種の危険性(戦争や差別などにつながる)を持っていると、私は考えています。

「最近の若者」論は、こうした心理的防衛機制と過度の一般化によってなされるどの時代にも共通した根深い問題だったわけです。

実は前回のコラムでは、「『直観』はどうして必要なのか」というテーマで、経験に基づく直観の重要性についてお話しました。経験の大きさは、直観の正確さを高めるという意味で、非常に重要です。一方で、経験に基づく過度の一般化や、過去の経験にしがみついて現在を直視せずに防衛機制してしまうことはできれば避けたいものです。

もしかすると、「最近の若者は…」という言葉が口から出そうになった時は、新世代が現れ、後進に道を譲る良いタイミングなのかもしれません。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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