1.幸福の追求というテーマ

「ドラゴンヘッド」(2003年公開)という映画を観たことがあるでしょうか。最後の結末が結構衝撃的で、かいつまんでいうと、日本を襲った未曽有の大災害で生き残った少数の人たちは最後、政府?が保管していた緊急用の備蓄食糧にありつくのですが、その食糧には感情を鈍麻させる作用があり、これを食べた人たちは絶望的な状況に対する辛さ、悲しみを感じなくなります。一方で、嬉しさや喜びの感情も同時に失っていく…というシーンがあります。このラストを見た時、“果たしてこれが幸せなのか”、ということを深く考えさせられました。

幸せって何でしょう。

こういうとなんだかポエムっぽくなってしまうので、もう少し正確に言うと、人の幸福感情はどんな時に生まれるのでしょうか。
私が普段お仕事で関わっている人事はもちろんですが、マーケティングでも営業でも設計開発でも突き詰めれば「人ってどういう瞬間に嬉しい!幸せ!って感じるんだろう」という疑問にぶつかるような気がします。
人事は、社員がモチベーション高く仕事をしてもらえるために、「こういうことをされたら嬉しいだろうな」と考えて評価制度やその他人事施策を行いますし、マーケティングは、カスタマーやユーザーが求めているニーズを考えて「こういうこと(もの)があったら嬉しいだろうな」と考えてCMや販促セミナーを開きます。営業もやはり、目の前のお客さんに対して「こういうことをされたら嬉しいだろうな」と考えて、提案を行います。設計開発も、ユーザーのニーズを考えて製品の仕様を変えたり、新製品を設計しますよね。
そういった中で、“つまるところ、どういう瞬間に人は幸せを感じるのか?”を私なりに結論づけてみたいと思い、今回筆を走らせました。

2.幸せの二元論

幸せを感じる理由について、色々な視点から説明を試みると、「人間は社会的な動物だから、人とのつながりを感じた時に幸せを感じる」というのも正解だと思いますし、「生理的・心理的に欠乏したものが満たされると(ホメオスタシス:身体の恒常性と呼びます)、幸せを感じる」というのも正解だと思います。
“幸せの定義は人それぞれ”、なんて言ってしまえばそれまでなのですが、ここは1つ、究極的に抽象化させてみようじゃないか、と思います。
完全な持論ですが、幸せはある二つの心理状態を行き来する間に生まれるものなのではないか、と思います。

それは「静的⇔動的」、「緊張⇔開放」、「収縮⇔拡散」です。

ぎゅっと固まった状態(静的、緊張、収縮)から解き放たれる(動的、解放、拡散)瞬間、人は幸福感情を感じるのではないか、ということです。
ストレスという言葉は元々工学分野での専門用語なのですが、この言葉を心理学・生物学にも応用したハンス・セリエという学者は「ストレスは人生のスパイスである」という言葉を残しています。私はこの言葉を、「人生は山あり谷ありだから面白い。山と谷がない平坦な人生はストレスもかからないが、幸福も感じられない」という意味だと解釈しています。そしてこの谷が静的、緊張、収縮の状態であり、山が動的、解放、拡散の状態だと思うのです。実は音楽もこの法則?を使って人を感動させたり、興奮させたりしています。
クラシックにおいては特にそうなのですが、曲が始まってから、静かで不穏な雰囲気の旋律で緊張が徐々に高まっていき、最後サビに入ることで一気に解放されます。
余談ですが、私は昔、クラシックの楽団に入ってパーカッション(打楽器)を担当していたのですが、よくシンバルを担当していました。シンバルはサビの頭で「ジャーン」と鳴らすことが多いのですが、私は勝手にシンバル奏者が一番の解放の瞬間を担っていると思っていました(笑)。

3.不幸せが幸せを作る

危機的な状況があるから、それを解決した時に幸せを感じる。辛いことがあるから乗り越えた時に幸せを感じる。これがすべての人、組織に当てはまるとすると、時にある種の居心地の悪さや危機的な状況を意図的に作り出すのも必要かもしれません。刺激がなく常に変わらない状態には人はすぐ飽きるからです。コロナ禍で今までどおりの生活が送れなくなって初めて、当たり前にあった日常がとても尊いと感じました。

喜び・快楽を作れるのは、逆説的ですが悲しみ・苦痛なのかもしれません。
幸せを作れるのは、逆説的ですが不幸なのかもしれません。

活性化していて成長し続ける組織が現状に安住せず、自分で自分のお尻を叩く、自分たちで危機感をあおり続けるのはそれが理由かもしれません。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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