1. 組織の中で、生きるということ

組織と人に関わる仕事をしていく中で、働く人のモチベーションについて考えさせられる場面が多々あります。

どうしてこの人はここまで成長できたのか?
どうしてこの人は会社を辞めるという決断をしたのか?
この人の仕事に対するモチベーションが高い、あるいは低い理由は何だろうか?

人事という仕事にも、制度や仕組みを作るような組織全体に係る施策を行う人事(マクロ的な人事)と、一人ひとりの従業員を見て、この人をどうマネジメントすればモチベーション高く仕事をしてもらうことができるのか、離職を防ぐことができるのかというような個別人事(ミクロ的な人事)と大きく二つあるかと思いますが、特に個別人事を考える際に、現在そうなっている現象の理由を考えると、ほとんどの場合、つまるところ「他人との関係性」にあたるのではないかと思うのです。
組織の定義は様々ありますが、ざっくり『何か共通の目的を持った2人以上からなる集団』と考えた時に、人は生まれてから死ぬまで何らかの組織(コミュニティ)に関わり続けているし、組織に関わっているということは、他人と関わっていると同義であるように思います。
人生の3分の1は働いており、働く以上、自分以外の誰かとの関わりは持ち続けています。働いていない学生であっても、サークルやアルバイト、部活、研究室など何らかの組織に属しています。
定年で退職した高齢者はどうでしょうか。定年前はせわしなく働いていたビジネスパーソンが、定年を迎え、会社を退職して、家にいるようになった途端、魂が抜けたように急速に衰えてしまう、最悪認知症を早期に発症してしまう、ということをよく耳にしますが、介護の世界では「生きがい支援」というものがあります。
「生きがい支援」というのはざっくりいうと卓球サークルであったり、パッチワークのクラブであったりと何かコミュニティに属して趣味を見つけることを支援するというものなのですが、ここでもどこかの組織に属することが「生きがい」につながると仮定されています。
人は社会との接点を持ち続けることで生きることができ、社会との接点というのはより具体的にはどこかの組織に属していることなのだ、と言い換えられるかもしれません。

2. 人の中で人は育つ

新卒採用に関わる仕事をしていて、毎年色々な就活生にどういう基準で会社を選ぶか、と聞くことがあります。この選社基準は、約1年間ある就活期間の中で、当然変化していくものなのですが、就活がスタートして初めの頃は、多くの学生が「自分のやりたい、興味のあることをやれる会社」を軸に選んでいることが多いように感じます。
ただ、面白いのが、当初こういった軸で就活をしていた学生が、就活後半の内定承諾を最終的な1社に絞る場面で何を元に絞るかというと、「人事の人が良かったから」「現場社員の人が良かったから」という理由で選んでいることが多いのです。結局は、最終的に人で会社を選んでいる、ということでしょうか。
また就活時期は最後までひたすら「自分のやりたいこと」で会社を選び、入社した方も、その後を見ていくと、数年後にその会社を辞める時の理由が「上司や同僚とウマが合わなかったから」ということも多々あります。
これは結局、多くの人にとって「何をやるか、よりも誰とやるか」の方が重要ということかもしれません。もちろん決して「何をやるか」が大事ではないということではありません。むしろ、何をやるかが明確になくてもかまわない。それでも人は全力で頑張れるんじゃないか、と思うのです。それくらい他人との関係性がモチベーションに影響を与えている、と思うのです。
また、先ほど挙げた就活生に聞く企業を選ぶ基準の中には「ひたすら成長したい」という答えが返ってくることも多いのですが、それも成長したいという願望には必ずその目的があるはずで、それを深ぼっていくと、「周囲に認められたいから」であったり、「周りの足をひっぱりたくないから」であったりと、ここにも他人の存在が出てきます。
人は、人の中で育つ。むしろ人の中でしか育たないのでは?と感じます。誰かが頑張れる理由も、諦めて辞める理由も周囲との関係性かもしれません。

3.その中で、人事ができること

このように他人との関係性が働く人のモチベーションに大きな影響を与えていると仮定した時に、組織としては何ができるでしょうか。
一つは、関係性を加味して人事を行うこと。人事の仕事は、給与を決めたり、研修を行ったり、労働時間を管理したりするだけではありません。
人の中で人は育つことを前提とすれば、育成には、周囲との関係性(相性)を加味した配置が必要ですし、採用においても、スキルフィットだけでなくカルチャーフィットを確かめる必要があるでしょう。
また個別人事としては、現場の上司が一人ひとりの部下にどのような関わり方をすればよいかをサポートすることも重要でしょう。
もう少し組織全体への試みとしては、インフォーマルネットワークの形成を促進するような施策を行うことも人事としては重要な役割だと思います。
インフォーマルネットワークとは、権限や役割が明確化された組織の公式構造とは別に自然発生する非公式の組織のことです。いわば人間関係でつながった従業員ネットワークのことを指します。組織に属している人であれば、誰もが、普段業務上繋がりの薄い他部署の社員からのアドバイスに助けられたり、飲み会の席でたまたま一緒になった人の言葉が励みになったり、という経験があると思います。これがインフォーマルネットワークの効果であり、組織開発において非常に重要なものであるとされています。というのも、採用、定着、育成、評価といった人事機能において、フォーマルな組織、つまり公式の仕組み・制度だけでは実際にはうまく回らないからです。
例えば、中途入社者は、新しい組織での人間関係(インフォーマルネットワーク)がまだできていないがゆえに、初めのうち多かれ少なかれ組織への適応に苦しみます。というのも、即戦力採用として入社後比較的すぐに成果を出すことを期待されている中途社員も、成果を出すためには周囲との信頼構築によって有益な情報が得られ、また協力も得られることが重要だったりするからです(これを『中途ジレンマ』と呼ぶそうです)。
こういった課題に対して、例えば、入社後比較的日の浅い中途入社者を集めた懇親会を人事部主導で行ったりすることで、より早期のインフォーマルネットワークの形成を促すことができます。人はどこまでいっても社会的な動物であり、集団の中でしか生きることができない。
そう考えると、そこで働く人たちがいかにやりがいをもってモチベーション高く仕事ができるかを考え、サポートしていくというのも、人事の仕事の醍醐味の一つであるように思います。

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安藤健

元々、臨床心理学を学んでおり、児童心理治療施設(虐待などで心に傷を負った子ども達の心理支援をする施設)にて、長らくインターンをしていました。 ここは、まさに心理学を「病の治癒」に活かす現場でした。そこから一転、心理学を「人の能力開発」へ活かしたいと感じ、人事という世界に飛び込んでみました。 現在では、こういった心理学の観点なども踏まえつつ、人事・マネジメント系コラムの連載をしています。

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