人材育成の参考になるポイント3選

現在、日本企業の多くが社内での育成を前提とした新卒採用を行っています。ポテンシャルを見込んで採用をしているため、社内での人材育成こそ新入社員の定着や活躍を支える鍵になります。

しかし育成環境は整っているものの、なかなか成長が見られない、そもそも実際にどのような育成方法が良いのか分からないなど、お悩みの人事担当者もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、人材育成をする際に参考になるようなポイントをご紹介します。

1.人材育成とは何か

まずはじめに人材育成には2つの枠組みがあります。1つ目は狭義の意味で、実際の業務を通して教育を行う「OJT(On the Job Training)」、業務とは別に教育目的で研修を行うOff-JT(Off the Job Training)」、社員自らがスキルの習得・向上を図る「自己啓発」などの育成方法です。

 一方で、広義の意味では、人事評価制度・目標管理制度・メンター制度・オンボーディング(新入社員の定着・早期戦力化)などの組織の制度設計が含まれます。そしてこれらの施策が新入社員を育成する秘訣でもあり、もしも育成に課題を抱えているとしたら、どこかに原因があると考えることが大切です。

 

2.人材育成の課題

社内での育成を前提として採用を行っているということもあり、おそらく多くの人事担当者も人材育成の重要性を理解しているのではないかと思います。しかし、就職して3年以内の離職率が、中卒就職者では7割、高卒就職者では5割、大卒就職者では3割といういわゆる七五三現象は続いており、思うように育たず会社を去ってしまう新人も一定数いることは明らかです。

 では一体なぜ退職をしてしまうのでしょうか。リクナビネクストの転職理由と退職理由の本音ランキングBEST10では、以下の結果になっています。

1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)

2位:労働時間・環境が不満だった(14%)

3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)

4位:給与が低かった(12%)

5位:仕事内容が面白くなかった(9%)

6位:社長がワンマンだった(7%)

7位:社風が合わなかった(6%)

7位:会社の経営方針・経営状況が変化した(6%)

7位:キャリアアップしたかった(6%)

10位:昇進・評価が不満だった(4%)

 

この結果を見ると、会社を辞めている理由の半数が人間関係や組織の文化によるものだということが分かります。つまり上司と部下の相性を考慮しないままOJTやメンター制度を導入すると、表面上は機能しているように見えても、実は人間関係に課題を抱えてしまい、人材育成の効果に期待できないということもあり得るのです。

 そこで次の章では、新入社員を定着するうえで参考になるポイントをご紹介していきます。

3.入社後の定着・活躍に繋がる配置のポイント

リクナビNEXTが行った退職理由に関わる調査を見ても、働く中で「何をするか」よりも「誰と働くか」ということに重きを置いているということが明らかです。さらに新入社員が新しい環境に適応し、新たな能力や考え方を身に着けると成長に繋がり、ひいては組織の成長も支えることになります。したがって配置が成功すると個人・組織両方にとって良い相乗効果を生み出すともいえるでしょう。配置を考える際には、以下2つのポイントを抑えていくことが大切です。

 

・相性を考慮した配置

・能力開発を考慮した配置

3-1. 相性を考慮した配置

ある研究によると、パーソナリティの相性を考慮したチームと何も考慮しなかったチームを比較すると、生産性と居心地の良さに大きな差が現れたというのです。それでは相性の良さとは何か、どのようにして相性を考慮したうえで配置を行うのかをご紹介します。

 

相性の良さには主に2種類あります。1つ目が同質の関係です。これは「何でも丁寧に教える上司に、細かく指導されたい部下がつく」というように性格的に類似している人同士を指します。コミュニケーションコストが減るので、友好関係を築きやすい一方で、思考が偏り慣れるとマンネリ化し、長期的に見ると生産性が下がる恐れがあります。

2つ目が補完の関係です。これは以下の図のように「信念や執着心が強いリーダーシップを発揮する上司に、素直で受容的な部下、もしくは決まったことを仕組化することが上手な部下がつく」というようにお互いの凸凹を補い合える人同士を指します。補完関係では互いに異質であるため、はじめは理解し合うのに時間を要しますが、長期的に見るとお互いを刺激し合うことで、生産性の向上に大きく影響するといえます。

業務内容や組織が抱えている課題によってどちらの相性の良さを利用するかは変わってきます。もしもOJTやメンター制度を導入していても、人間関係に問題があると思われた場合には、一度、適性検査でパーソナリティを可視化し、適切な配置ができているかどうか確認してみると良いでしょう。

3-2. 能力開発を考慮した配置

一般的に配置をする際には「その仕事が最もできる人、最も成果を出せる人」というのが一番はじめに思い浮かぶ人も多いのでしょうか。たしかにその仕事ができる人を配置すれば、すぐに成果を出せるため、目の前の事業運営上は非常に重要です。しかし長期的に見た場合、あまり効果的ではありません。なぜなら、その仕事が最もできる人というのは、その仕事から新たに学ぶことはもうほぼないので、マンネリ化してしまうからです。そして異動機会が少なくなり、徐々に社外に目を向けるようになって退職へと導く危険性があります。一方で若手も、ポストが空かないので、そこの仕事を通して成長をする機会を失ってしまうのです。

 そのため状況に合わせながら「その仕事から最も学べる人、最も伸びる人を配置する」という視点を取り入れることが重要になってきます。会社からすると、短期的に成果を上げるために現状維持を選択したくなる気持ちは分かりますが、人材が育つことが最終的に会社のためにもなると考えると、「現在」と「未来」のバランスを考慮した上で配置を行うことが重要です。

4.入社後の定着・活躍に繋がるメンター制度のポイント

メンター制度とは、内定者や新入社員に対して配属部署の直属の上司とは別に、年齢や社歴の近い先輩社員がメンターとなり、新人たち(メンティ)のサポートをするというものです。メンターは部署を超えて、新入社員の仕事の不安や悩みの解消、業務の指導・育成を担います。

 その際メンターは先ほどご紹介した相性の良い人、入社3~5年目程度の”親近感”のある若手が効果的です。スター社員は、能力がかけ離れてしまい、メンティのロールモデルになりにくく、メンティが「自分が頑張ったところで」と自信を失いかねません。

 また一点気をつけることは、メンター制度とOJTは異なるということです。メンター制度とOJTの一種と捉えると、メンティの心理的な満足感よりも仕事の効率性が優先され、「即時性の高い解決法を指示する」だけの場になってしまいます。そのため、メンティと利害関係のない人をメンターとして配属を行うのが良いでしょう。

5.入社後の定着・活躍に繋がる新入社員の心構えのポイント

さらに定着をしやすくするうえでは「キャリアに関する先入観の白紙化」が重要になります。

なぜなら一般的に新入社員は理想を抱いたまま入社します。例えば、マーケティングは華やかでかっこよい、人事はルーチンワークでつまらないなど、イメージだけで仕事を判断しがちになります。その結果、希望の部署に配属ができないと、前向きに業務に取り組めない、やりたかった業務内容ではないという理由で退職するなどの問題に繋がってしまいます。近年では「配属ガチャ」という造語も出ており、いかに新入社員が配属に重きを置いているのか分かります。

 そのため人事担当者は「人気のある仕事の幻想を取り除き、人気のない仕事の偏見を取り除き、仕事の食わず嫌いをなくした状態にさせることが求められるのです。

 

それでは実際にどのようにしてキャリアに関する先入観の白紙化を進めていけば良いのか以下3つのステップをお伝えしていきます。

 

1.仕事の魅力の均質化

     ↓

2.先輩社員のキャリア事例を見せる

     ↓

3.理論的説明によるマインドの醸成

5-1. 仕事の魅力の均質化

どんな仕事にも魅力はあるものの、学生は業種・職種をイメージだけで判断する傾向があります。その結果、配属された部署が希望とは違った場合、「こんなはずではなかったのに」と仕事を取り組む前から落胆してしまう危険性があります。それを防ぐためにも仕事の魅力の均質化が必要なのです。

例えば華やかでかっこよいイメージを持たれるマーケティングでは、どんな大変なことがあるのかを会社説明会で伝え、人気のある仕事の幻想を取り除きます。一方でルーチンワークでつまらないと思われている人事では、やりがいを付け加えることで、人気のない仕事の偏見を取り除きます。

5-2. 先輩社員のキャリア事例を見せる

仕事の魅力の均質化ができた後には、偶然をものにした先輩社員のキャリア事例を見せます。「最初は不本意な配属だったとしても、素直に目の前の仕事に取り組むことで違う世界が見えてくる」という実体験を話してもらうことで、より現実味を帯びて、かつ希望を持ってキャリアについて考えてもらうきっかけになります。

 

5-3. 理論的説明によるマインドの醸成

最後に、一般論を伝え、キャリアに関しての考え方を改めて考えてもらいます。ここでご紹介するのがアメリカのクランボルツ教授によって示された「計画された偶発性理論」です。彼は将来性・正解が見えにくい現代では、自分自身のキャリアは簡単に作れず、キャリアの8割は偶然で決まると唱えています。ただ“自分にとって好ましい偶然”を呼び込ませる環境づくりはできます。それが好奇心・持続性・柔軟性・楽観性・冒険心を大切にし、行動するというものです。

偶然をキャリア形成の機会にするために、常にオープンマインドでいること、柔軟性を持ちつつも、アサインされた業務に一生懸命とにかく頑張ってみることの大切さが分かります。たとえ希望した配属部署や業務内容ではなかったとしても、このようなマインドを育んでもらい、前向きにキャリアを考えてもらうことが新入社員の定着を支えるポイントになってきます。

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は入社後の定着や活躍に繋がるうえでも重要な人材育成についてお話してきました。現在多くの企業で人材育成のために様々な制度や施策を導入していることと思います。

より個人が成長でき、さらに組織の成長に大きく貢献できる人材育成をしていくうえでも、今回の内容をぜひご参考にしていただければと思います。

参考資料

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曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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