「人を人が評価する」人事評価が難しい3つの理由

人材育成の方法としても、処遇を決める方法としても活用される人事評価。

現在、営利・非営利問わず多くの組織で取り入れられているこの人事評価ですが、「中々上手くいかず難しい…」という声が非常に多く聞かれます。

 今回は、こういった人事評価が難しいといわれる3つの理由についてご紹介します。

1. 人事評価は組織にとってなぜ必要か

現在、人事評価は、あらゆる組織にて行われています。評価制度として明確な仕組みがあるのか、仕組みはなく経営者自身が直接評価するのかは別として、人材を何らかの基準に照らして評価するという行為は、あらゆる業界の民間企業から、NPO、病院、行政機関に至るまで、広く浸透しているのではないでしょうか。

しかし、なぜそもそも人事評価は必要なのでしょうか。その理由としては大きく以下2つが挙げられます。

 

  • 「処遇」のための人事評価
  • 「育成」のための人事評価

1-1.「処遇」のための人事評価

組織は従業員を雇っている以上、人件費が発生します。人件費はどこから捻出されるかというと、一般企業であれば利益から、NPOであれば寄付金などから、病院では診療報酬などから捻出されるでしょう。こういった人件費の出どころを「報酬原資」といいます。この報酬原資を従業員へ分配する際、どのような取り分で配るべきでしょうか。本質的には、頑張った人には頑張った分だけ報いたい(本人としても報われたい)、つまりその分取り分を大きくしたい、という心理が働きますが、その際この取り分に差をつけるための根拠となるのが、人事評価です。つまり「処遇」のための人事評価と言えます。

1-2.「育成」のための人事評価

多くの組織は、基本的に存続と成長を志向します。組織を支えるのはなによりもまず「人」ですので、組織が成長していくためにはそれを支える人自体が成長していかなければなりません。人が組織の中で成長するということは、今ある能力を更に伸ばしたり、これまで持っていなかった能力を新たに獲得したり、新たな視点・価値観を獲得するということですが、これによって事業は成長していき、収益も拡大していきます。

 そして、人の成長を後押しするのが、育成という人事機能です。育成は、研修や現場での経験などから行われるものですが、実は人事評価にもこの育成という観点があります。

 それは、人事評価の中で、社員のこれまでの能力・行動・成果などを評価し、どこが出来ていなくて、どこが出来ているのかを明らかにすることで、その社員の自己認知を高めることをサポートするからです。自分の強み・課題を正確に認識しているという自己認知能力は、育成においてなにより重要なファーストステップです。このように人事評価は「育成」のためという目的も持っているのです。

2. 「ぐうの音もでないことと、納得感があることは違う」

上記2つの目的を持っている人事評価ですが、どちらにとっても重要なポイントがあります。それは「評価に対する納得感」です。

処遇に関しても、“自分はこういう理由でこの評価だからこの給与になった”という納得感が当然必要ですし、育成に関しても、“これがあなたの課題だ”と指摘されていることに納得感がなければ課題点を今後修正していこうという気持ちにはならないでしょう。

この納得感を作るために、常日頃、人事担当者の方々は頭を悩ませているように思います。

しかし、納得感の醸成についてしばしば勘違いを招いていることが1つあります。

それは「ぐうの音もでないことと、納得感があることは違う」ということです。

多くの経営者や人事評価制度担当者の方は、評価制度を設計する際に、評価基準や評価が決まるまでのプロセスを細分化・明確化し、社員から「なぜこの評価なんですか?」と言われた時に、ぐうの音もでないほど詳細に作り込むことによって納得感を担保しようしているケースが散見されます。しかし、実際に出来上がった厳格な評価制度を社内に告知し、いざ運用開始してみると、社員からはブーイングの嵐が巻き起こったり、制度自体が形骸化してこちらの想定通りに運用してくれない。こういった事例がしばしば見受けられるのですが、これはどうしてでしょうか。

人事評価制度は「設計が2割、運用が8割」と言われます。

もちろん会社は社員の評価結果に対しての説明責任がありますし、実際に学術研究の世界においても、評価が決まるまでのプロセス(『手続き的公正』といいます)が納得感の醸成において重要であると言われています。

しかし、評価制度の設計だけではうまくいかないのが現実の世界です。

経営層や人事部が一見完璧な評価制度を構築したとしても、それだけで、全社に広く浸透し、うまく制度が回る、ということはほぼありえません。

なぜなら、評価されるのは「人」であり、また評価をするのも「人」であるためです。

人が人を評価するからこそ、そこには様々な心理状態やバイアスが入り込み、ここに私は、人事評価を難しくさせている大きな理由があると思います。

3. 人事評価を難しくさせている3つの理由

 では、この「人が人を評価する」という側面から見た人事評価の難しさについてより詳しく見ていきましょう。

 なぜ人が人を評価するがゆえに、人事評価は難しいのでしょうか。それには大きく3つの理由があると思います。

  • 必ず主観が入るから
  • 良い評価だけなく、時には辛い評価もつけなければならないから
  • 評価を行ったらフィードバックもセットで行わなければならないから

3-1.必ず主観が入るから

 採用活動における面接なども同様ですが、人が人を評価すること、つまり人を見立てる場合には、必ず評価者の主観が入ります。

 これは、「人は自分が見たいものしか見ない」と言われている通り、基本的に人間は周囲の世界を見る際に必ず、自分の価値観というフィルター(色眼鏡)を通してみるように脳の構造ができているためです。

 これによって、あるメンバーの行動を一つみても、極端な話あるマネージャーにとっては「怠惰であり、やる気がない」と感じ、別のあるマネージャーにとっては「勤勉で、やる気がある」という評価、見立てになってしまうのです。これでは、メンバーにとっては、どの上司の元につくかで評価が変わってしまうことになり、絶対的に避けなければなりません。

3-2.良い評価だけでなく、時には辛い評価もつけなければならないから

 メンバーをある基準に照らして評価するということは、基準よりも高ければ良い評価をつけることができますが、そうでない場合は、辛い評価をつけなければなりません。

 また相対評価として評価分布(S評価は全体の〇%など予め評価の割合を決めておくこと)を設定している場合は、毎回必ず誰かが辛い評価となります。

 その時に、評価をつけるのは、誰でもない現場のマネージャーなのです。

 人は誰しも、誰かに嫌われたくない、という感情を持っていますので、これは評価をつけられるメンバーだけでなく、マネージャーにとっても辛い作業となります。

 この心理も人事評価を難しくしている理由の1つですが、この問題をおざなりにしておいてしまうと、いわゆる評価の寛大化傾向(全員甘めに評価をつける)、中央化傾向(1~5の評点で3に偏るなど、差をつけない)が起き、評価制度上で評価分布を設けている場合は設計通りに運用されないといったことが起きてしまいます。

3-3.評価を行ったらフィードバックもセットで行わなければならないから

 また、評価を行った後は、評価結果と新報酬の通達だけでなく、フィードバックの機会を設け、メンバーに対してどこが良くて、どこに課題があったのかをきちんと伝えなければなりません。これも上述と同じように良い評価だった場合は行いやすいのですが、悪い評価だった場合は、正直やりづらい…というのが本音でしょう。

 本来は、むしろ悪い評価だった場合こそフィードバックを行い、きちんと改善点を明示して、行動変容を促すべきなのですが、やはり心理的には難しいと思います。

 これも人事評価を難しくしている理由の1つでありますが、難しいからといって放置してしまうと、マネージャーがきちんと改善点を伝えないまま面談を終わらせてしまう、または「私はよいと思ったんだけど会社がね…」というような管理職としての責任逃れ的発言に走ってしまう可能性があります。

4. 人事評価は人事と現場マネージャーの二人三脚で初めて機能する

これまで見てきた、「人が人を評価する」という側面から見た人事評価の難しさに対して、どのように対策を行うべきでしょうか。

まず3-1.の評価には必ず主観が入る、ということについては、注意すべき点は以下2つです。

 ・主観に頼った評価ではなく、客観的事実に基づいた評価とする

  マネージャー本人の主観ではなく、必ず具体的・定量的な事実をベースとして評価を行うようにする必要があります。

 ・マネージャー間で評価基準をすり合わせておく

  同じ事実に対してマネージャーの間で、できる限り評価が変わらないために、どういった行動が、どの評価に値するかといった目線合わせも、行っておく必要があります。

 

 次に、3-2.の辛い評価がつけられない、ということや、3-3. のきちんとしたフィードバックができないということについては、評価者研修などで部下を評価することの意味づけを丁寧に伝えたり、面談スキル・フィードバックスキルについてロールプレイなどを用いて訓練するなどが良いでしょう。

 このように、評価制度のプロセス設計だけでなく、同時に現場で運用してもらうマネージャーに対して、評価制度の目的・趣旨や、評価者訓練を丁寧に行うことが非常に重要なのです。これが人事評価制度は「設計が2割、運用が8割」と言われる所以です。

 また、一度運用し始めた評価制度は、実際に回している現場のマネージャーからの声を聴きつつ、ブラッシュアップしていくことが重要です。これまで見てきたように本来片手間ではできない大切な仕事である人事評価を、現場業務と併せて行わなければならない現場マネージャーは非常に多忙です。そんな彼らができる限り、効率的かつ効果的に人事評価ができるよう、彼らの意見に積極的に耳を傾けつつ、更によい評価制度に仕上げていくことが、人事には求められるでしょう。

 まさに、人事と現場マネージャーが二人三脚で人事評価に取り組んで、初めて難しさが克服されるのです。

 

5. まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は、人が人を評価するがゆえの人事評価の難しさとその対策についてお伝えしました。評価における厳格性はもちろん重要ですが、それを回す現場マネージャーの評価スキル・フィードバックスキルと、人事担当者の裏支えも、何より重要だと思います。

これらを考慮した人事評価ができているか、今一度自社を振り返ってみていただくと良いかと思います。

 

参考文献

・「組織的公正に影響を与える要因に関する実証研究:組織的公正理論の発展に向けて」, 商大論集 第59巻 第2・3号,三崎秀央

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曽和利光

曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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