新卒入社後の人事評価で人事が念頭に置くべき3つのポイント

評価や報酬制度はネガティブな感情や不満を抱かれやすく、その制度設計は人事の仕事領域の中で最も神経を使う仕事の一つといえるでしょう。中でも、新卒で入社したばかりの新入社員の人事評価というものは難しい課題といえます。

 その際に、評価担当者が念頭に置いておくことで少しでも不満を軽減させることができるポイントをご紹介します。

1.人事評価制度の設計は難しい ~どんな制度もメリットがあればデメリットもある~

 企業が得た利益をどのように配分するか、これは非常に重要で繊細な課題です。新入社員とベテランの社員では業績や利益に対する貢献度は明らかに違うでしょうし、同時期に入社した社員同士であっても異なってくることが多いでしょう。主観的で不平等な分配は社内に不満を蔓延させてしまいます。本来、利益の分配は経営者が行うものです。しかし、人間には認知限界というものがあり組織が大きくなるとひとりひとりを明確に把握することが難しくなります。

 そこで人事評価制度を設計し、それに基づいて配分するわけです。また、同義語に人事考課というものがあります。広く同じ意味に使われることが多いですが、人事評価の方が報酬の配分に限らず育成や配置などに必要な情報として用いることで広い意味を持っています。 例えば、最近では一般的となってきた目標管理制度(MBO)や、360度評価など、今までに様々な制度が生まれてきています。

 しかし、どのように設計しても必ずメリットもあればデメリットがあります。上手に制度が活用できなければデメリットばかり顕著になり、新たな不満を生むことになりかねません。人間が人間を評価するのは難しいことで、好みや好き嫌いが必ず存在します。一方で、システムを厳格にしていくと余裕がなくなり、士気や創造性が低下してしまいます。

 大切なのはコミュニケーションによって「納得感」を最大限作っていくことだと言えます。評価制度の設計は、理想を実現する行為ではなく、不完全を承知の上でなるべく不満が出ないように努力をし続けるしかないのです。

 

2.新入社員の人事評価は特に難しい ~新入社員は自己評価が高い~

 中でも新卒で入社間もない新入社員の人事評価というのは、お互いをまだ詳しく知っていないなど様々な点からセンチメンタルな課題であり、その分不満も生まれやすいでしょう。特によくある不満として「自分の評価が低すぎるのではないか」というものがあげられます。実はこのことには原因があるのです。

 まず、20代などの若者、とりわけ新入社員というのは良くも悪くも「無知の世代」といえます。最新技術や時々の流行などは20代が最も知っていることでしょう。しかし、時を超えた普遍性を持つ世界に関する知識や、自分自身に関する認識については、年を重ね、経験を積んで知識を積み上げていくものですので、集団として相対的に年を重ねた世代より無知であるといえます。

 ただ、必ずしも無知というのは悪いものではありません。知恵がつけば怖くてできないことも無知さゆえにできることもあります。無知さゆえに新しい発想が湧くことも多くあります。必ずしも無知というのは悪いものではありません。そして、この無知が生み出すものの中で最も大きなものは「自信」ではないかと思います。無知さゆえの自信。

 実はこのことは、心理学でも確認されています。能力の低い人物が自らの容姿や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまうということが発見されています。つまり、能力の低い人は、自分の能力を正確に推定できず、能力不足を認識できていないことが多いのです。

 新入社員というのは、その組織の中において相対的に能力が低いことが大半でしょう。ゆえに、大抵の場合、自己評価を過大評価しています。もし、実態通りの評価がついたら自己評価とギャップが生じて不満が生まれます。生まれた不満は、ややもすれば退職にもつながるような重大な問題へと発展しかねません。放置しておくわけにはいかないでしょう。しかし、せっかくの自信を打ち砕くのは良いことではありません。

 こうした理由から、新入社員の評価というものは大変難易度の高い問題と言えます。しかし、新入社員が自己評価を実態以上に高く誤認してしまう理由を把握することができれば、解決の糸口が見えてきます。

3.新入社員の人事評価で人事が念頭に置くべき3つのポイント

3-1.人事評価は相対評価であることを理解させる

若手の社員が自己評価を実態以上に高く誤認してしまう理由のひとつは、人事評価の根本が相対評価であることを理解していないことです。もちろん、目標を達成したことも評価すべき成果ですし、達成したことで彼らの自己評価が高まることも自然な発想です。

 しかし、先に述べたように人事評価というものは、有限の企業が得た利益の配分を決めるものですので、自分がどの程度できたかという絶対評価ではなく、他者と比較してどの程度できたかという相対評価が基本です。

 ですので、リアルに相対評価の対称群となる人たちを示してあげることがポイントです。そうすることで、自分の仕事にベンチマークができます。自分では「結構できた」と思っていても、横を見れば自分以上に成果をだしている人がいる。それを理解することは、評価に対する納得感につながるでしょうし、モチベーションにもつながってくるでしょう。

 

3-2.低すぎない目標を設定する

また、若手の自己評価が高くなってしまう、よくあるもうひとつの理由は、目標設定のレベルが低めに設定されていることです。昔と違い、今は褒めて育てる、がベースになっています。そのため、目標設定はロー・ハンギング・フルーツ(低い位置にある果実)といって少し頑張れば達成できるレベルにすることが多くなっています。そうなれば当然、少しの努力しかしなくなってしまい、それを褒めてもらうことになります。このことはモチベーションを上げることに一役買ってはいますが、自己評価を高く誤解してしまう原因にもなっているでしょう。

 そこで、自己評価の高い人であるなら、むしろそれをうまく逆手に取って、「君ならこの目標でも達成できると思うのだけれど、どうだろうか」と高いレベルの目標を設定することも重要です。もちろん達成した際は評価し、達成できなかった際のフォローも肝心です。

3-3.能力ではなく、努力をほめる

さらに、褒め方にも自己評価を実態以上に高めてしまう原因があります。若手社員や新入社員が何か成果を出したときに、褒めることはもちろん良いことです。しかし「天才だね」などのように能力を褒めるのはあまり良くないようです。

 ある研究によれば、能力の高さを褒められると、その評価を下げることに恐怖を抱き、新しいチャレンジを避けて、先の「ロー・ハンギング・フルーツ」ばかりを狙いに行くようになることが知られています。これは、特に能力が固定的なもの(人の能力は資質的なもので努力や育成で伸ばすことができないもの)と考える人が無意識的に反発してしまうことがあります。能力を固定的と考える人にとっては、少しでも低い評価をされると、先の評価を守ろうとして「相手の評価がおかしい」と考えてしまう傾向があるのです。

 一方で、コントロールしやすい努力のほうを褒めることで、自分の意思次第で成果も成長も決まる、という意識になりやすいのです。低い評価を受けた際にもそれを自分の能力に起因すると考えるのではなく、もう少し努力すれば良かった、や、やればできたかもしれないと考えることで、その評価を受け止めやすくなることでしょう。

4.まとめ

 完全な人事評価制度がない中で、不満の生じない制度は存在しません。

 そこで本記事では、新入社員にみられる評価に対する不満について取り上げました。新入社員の自信過剰さは特権であり、それ自体価値あるものだと思います。その自信をプラスの方向に転換させることができれば、企業の未来に期待が持てるのではないかと思います。

 本記事が納得感を醸成する人事評価制度設計の一助となれば幸いです。

参考記事

・「人事と採用のセオリー」ソシム 曽和利光

・「職場の20代に「自分の評価が低すぎる」と訴えられた」 OCEANS 職場の20代がわからない Vol.20

https://oceans.tokyo.jp/lifestyle/2018-0824-1/

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曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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