【2020年最新版】人事制度のトレンド・流行手法5選

社員の報酬を決めるうえでも、人材育成をするうえでも、社員のパフォーマンスや働きやすさを向上するうえでも土台になる人事評価。

組織課題の解決や、より良い組織づくりをしようと考えた際に「人事評価制度の見直し」に目を向ける人事担当者も多いことと思います。

しかしビジネス環境や働き方への変化が著しい昨今では、自社にはどのような人事制度が適しているのか判断することは難しくなってきています。

そこで今回は、昨今注目されている「最新の人事評価制度」を5つご紹介します。それぞれの人事評価の概要とどのような企業に向いているか、もしくは向いていないかという情報を添えておりますので、導入検討の際にお役立ていただければと思います。

1.トレンドの人事制度5選

1-1. 目標管理制度(MBO)

現在、多くの企業が評価に取り入れているスタンダードな制度が目標管理制度(MBO:Management By Objectives)です。マネージャーとメンバーが話し合い、一定期間ごとに目標と達成基準を設定し、期間終了後に目標の達成度合いを評価します。目標管理制度の導入により自律行動の促進、改善点の明示、納得度の向上などの効果が望めます。

 

・向いている企業

 年間で目標の達成度合いを評価・判断できる業務領域であること、数字で定量的に成果を把握しやすい職種が多い企業や、経済・社会状況に左右されにくい、勝ちパターンがある程度決まっている市場を主とする企業などが目標設定がしやすいために向いています。

 また、目標テーマの設定の自由度が高いというのが特徴の一つです。売上・行動・成果・育成など比較的何でも目標を設定することができるため、目標設定が肝になります。そのためマネジメント人材には「テーマ設定能力」を育んでもらうことが重要です。

 

・向いていない企業

 変化が激しい市場を主としていたり、新規事業を手がけていたりする企業は、事前に明確な目標を設定しにくく、導入には工夫が必要です。また、マネジメント人材が不足しており、目標設定や人材アセスメントの能力が組織全体としてあまり高くない場合は、入念な導入研修・トレーニングが必要になってきます。

1-2.360度評価制度

直属のマネージャー上司だけでなく、同僚や部下、先輩、後輩場合によっては顧客など社外の方などの評価も取り入れ、最終的な評価を下す行う制度です。上から下ではなくて、取り囲む全員から多面的に評価されるため「360度」という名称がついています。

 上司が普段は気づかないメンバーの良さが表層化されたり、「多くの人に見られている」という意識を持ち行動をするようになるためバリューなどが社内に浸透されたりするなどの効果が望めます。

 

・向いている企業

数字として成果を表しにくく、明確な目標や達成基準を設定しにくい職種が多い事業を手がけている企業や、プレイングマネージャーを基本とし、メンバーそれぞれの活動に目が行き届かない企業などに向いています。

 また、IT企業などをはじめ、高い専門能力が求められる領域では、メンバーの高度なスキルや成果を上司が判断しにくいこともあるため、専門家同士の相互での評価を取り入れる場合もあります。

 

・向いていない企業

営業会社のように、成果が数字で見えやすい・目標を立てやすい職種が多い事業を手がけている場合には、360度評価を行う必要はあまりなく、マネージャーのみで評価することが可能です。360度評価の難点は、普段評価に慣れていないメンバーも評価に参加することになるので、評価に差がついてしまうことがあるという点です。一般メンバーにもきちんと適切に評価する能力が求められるため、その分、評価方法についての教育・指導などのコストがかかることも想定されます。

1-3.OKR

高い目標を達成するための目標管理法として、大手IT系外資企業などが取り入れています。企業・部門・チーム・個人という階層ごとに「Objectives(目標)」と「Key Results(主要な結果)」を設定し、その達成レベルを評価します。従来型の目標管理制度よりもさらに個人と企業の目標をリンクさせることを重視しています。また変化に柔軟に対応できるように、目標設定から進捗確認、評価までの一連の流れを、高い頻度で行います。MBOでは上司とメンバーとの目標共有ですが、OKRでは組織全体という幅広い範囲での共有になりますので、チームでの連携が鍵になります。

 このようにOKRとは目標と結果を可視化することで、全社員と組織の目標がズレないように運用していく手法です。その結果、仕事のゴールを明確化させられる、今自分の担当している業務が会社の目標の一部を担い、役に立っていると実感することができるので、社員のモチベーションアップに期待ができます。

 

・向いている企業

社員全員に対し、企業目標を明確にすることができ、また、各部門やチーム、個人間での意思疎通を図ることができるため、タスクの優先順位も明確になるメリットがあります。トップダウンではなく、社員が主体的に意思決定をしていく企業や、変化の激しい市場を主とする企業には向いている制度といえます。

 

・向いていない企業

経済・社会状況に左右されにくい事業を主とする企業など、社内全体で連携を図る必要がない場合には、頻繁な意思疎通をすることが余計なコミュニケーションコストとなる可能性もあります。また安定志向の社員が多い企業の場合、高い目標に向かって主体的に動く制度を適用することは、難しいかもしれません。

1-4.ノーレイティング

社員のランク付けを行わない、新しい人事評価制度です。欧米を中心に広まり、日本企業も注目しています。年度単位での評価は行わず、リアルタイムで目標設定を行い、マネージャーからの評価とフィードバックもその都度行います。月次/週次で行われる1対1の面談を通じて、仕事を通じて得た体験や課題、悩みを上司と共有しフィードバックを受けメンバーを育成します。

そのようなコミュニケーションをすることによって、評価に対しての納得感も得やすくなりますし、報酬としての外発的動機付けではなく、社員本人の中からモチベーションを引き出す内発的動機付けができ、創造性を発揮して仕事をすることに期待ができます。

 

・向いている企業

変化の激しい市場や新規事業、グローバル展開を手がける企業。また、従業員の創造性を伸ばすことに重きを置くクリエイティブな企業や、成果による競争よりもチームが協働することを大切にする企業に向いているといえるでしょう。

 

・向いていない企業

 定期的に面談を行うことが必要であり、面談を手がけるマネージャーにも高い育成・指導能力が求められます。マネージャーそのものの適性を判断し、的確な指導ができるような教育研修も必要となるので、そこにコストを掛けられるかどうかがポイントとなるでしょう。特に評価をする立場にある上司は状況に応じたフィードバックや指導が必要になるため。時間や手間、さらには精神的な負荷がかかるということを念頭に置く必要があります。

 さらに既存市場を対象とし、従業員の職務範囲も決まっている場合には、コストに対するメリットが少ないといえるかもしれません。

1-5.リアルタイム評価制度

リアルタイム評価とはその名の通り、スパンを定めずリアルタイムで上司からメンバーを評価する人事評価制度です。半期や1年など比較的長期スパンで評価をすると、時差が生まれ「あれが良かったと今言われても…」と感じてしまいます。またはじめに設定した目標が、達成が難しいとなったと場合でも、評価終了期間まで目標の修正が行わないと目標と現実の間でギャップが生まれメンバーのモチベーション低下に繋がる恐れがあります。

リアルタイムで評価をすることで、業務の進め方や目標設定に問題があった場合、早期の軌道修正を可能にさせますし、メンバー自身のモチベーションを上げることに期待ができます。

 

・向いている企業

リアルタイムでフィードバックをするということは、上司の高い育成・指導能力が必要になります。そのためノーレイティングと同様、的確な指導ができるような教育研修も必要となるので、そこにコストを掛けられるかどうかがポイントとなるでしょう。

 

・向いていない企業

 元々日本人はネガティブフィードバックを好まないという国民性があります。

 そのため、メンバーに好ましくない行動が見られた場合でも、「たまたまかもしれない」と考えて、都度のネガティブフィードバックができず、長期に渡って好ましくない行動が見られた場合のみ、評価面談という形で改善してほしい行動を伝えることが多いのです。

 つまり日本人の国民性を考えると、評価面談という枠組みがない状態、つまりリアルタイムでメンバーにネガティブフィードバックをすることはハードルが高いとも言えるでしょう。

2.どの評価制度を導入すべきか

人事評価のトレンド5つを向き不向きもあわせてご紹介しました。自社に合う評価制度はどのように見つけていくべきなのでしょうか。

 

人事には採用・育成・配置・評価・報酬・代謝の6つの機能があり、これらに一貫性がとれていることが重要です。そしていい制度、いい人事システムとは、6つの機能が一貫性を持ち、さらに企業の事業と重ねて考えられていることがポイントです。ですからトレンドの人事制度をすぐに取り入れるのは、自社とマッチしない可能性もあるので危険です。

 

また社内には「給与は頑張ったら頑張った分だけ報われるように差がつく方がよい」という声もあれば、「みんなで仕事をしているのだから差をつけてほしくない」という声もあるでしょう。

 

企業の事業に合わせて一貫性のとれた人事評価の在り方について考えることはもちろん、会社を取り巻く課題に目を向けること、社員の志向性、ニーズに耳を傾けるという姿勢が人事担当者に求められているのではないでしょうか。

 

3.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は人事評価のトレンドをご紹介しました。

人事評価がもたらす良い側面だけに注目し、流行に流されたまま人事評価を導入すると、結局自社と評価の仕方が合わないと逆効果になってしまいかねません。

今回の情報を踏まえ、どのような評価制度が自社に適しているのか考える機会にしていただけたらと思います。

参考資料

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曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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