人事評価の不満に対して人事はどのように向き合うべきか

2018年、アデコ株式会社の調査によって回答者の6割以上が、勤務先の人事評価制度に不満をもち、約8割が勤務先の人事評価制度の見直しが必要と考えているという実態が明らかになりました。

 今回は社員が人事評価に不満を持つ原因、そして社員の不満に対して、人事担当者や管理職はどのようなアプローチをするのが効果的かをご紹介します。

1.人事評価とは何か

 まずはじめに人事評価そのものについて考えてみましょう。「人事評価」とは、社員が遂行した業務や、その成果・業績などを評価し、その良し悪しを判断するためのものです。

良し悪しを決定した後は、報酬という形で給与が支払われます。ベースには等級があり、報酬と評価は相互に影響を与えあっているという構造です。

 もしも皆さんの働かれている会社で「これからは評価なしで、全員平等に給与を支払います」という通知が来たと想像してみてください。おそらく頑張ったら頑張った分だけ報われたいという志向性を持つ人が多い場合、不満が殺到するのではないでしょうか。

 つまり企業は社員がなるべく納得できるような報酬と評価に関するルールを何らかの形で導入し、人事評価を行っているのです。

 

2.不満があっても人事評価が必要な理由

次になぜ人事評価は必要なのかをご紹介します。最終的に給与の取り分を決めるのは、経営者です。会社の規模が小さめで働きぶりを知っているのであれば、経営者は給与を誰にどの分支払うのか決定させることは簡単ですし、納得感もあります。

 しかし経営者が一人ひとりを見切れなくなった時、給与の分け方に問題が生じます。このように経営者が一人で社員を見ていたフェーズから、人が増え中間管理職が生まれてくるフェーズになったときに、行動ベースでの仕組化が求められます。ですのでそこではじめて人事評価制度を導入する必要性が出てきます。

 つまり社員数が増えるほど、組織が成長するほど、人事評価の必要性が高まるということです。

3.人事評価が不公平だと思われる原因

冒頭にお伝えしたアデコ株式会社の調査では、評価制度に不満を持つ理由として以下の意見が挙げられていました。

 

1位 評価基準が不明確 62.8%

2位 評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出て不公平だと感じる 45.2%

3位 評価結果のフィードバック、説明が不十分、もしくはそれらの仕組みがない 28.1%

 

6割以上の人が「評価基準が不明確」である点に不満を持っているということですが、評価に対して「公平さ・不公正さ」を感じる原因とは一体何なのでしょうか。研究での知見を踏まえて、公平さについて考えていきましょう。

 

 

「公正さ」は以下2つの概念に分類ができます。

  • 分配的な公正さ
  • 手続き的な公正さ

3-1. 分配的公正さ

「分配的公正さ」とは、受け取った報酬に関して知覚される公平性のことです。 人は主観的にインプットとアウトプットが釣り合っていると感じたら公平と感じる傾向があります。人は自分が投下した資源に対して、それに見合うだけの報酬がほしいと考えるのです。

 しかしここが問題です。時間内に労働を終えることが会社に対しての貢献(インプット)だと思っている人もいれば、残業して働くことを貢献と考えている人もいます。それに見合う報酬(アウトプット)に、賃金の高さを求めている人もいれば、労いの言葉を求めている人もいます。このように、インプット・アウトプットを個々人がどのように捉えているのかは人によって異なり、一つに限定することはできません。そのため実証研究も進みにくく、評価制度を作る時に、分配的な公正さを担保することは難しいというのが現状です。

 

3-2. 手続き的公正さ

 もう一方の「手続き的公平さ」とは、報酬が決定される際の手続きに関して知覚された公平性を示します。「手続き」は以下6つの構成要素から成り立っています。

 

①一貫性

上司が異なっても昇進や昇格の決定の際には同じ基準で評価されるというように「人と時間」に依存しない

 

②偏見の抑制

自己の利益や偏見を評価に持ち込まない

 

③情報の正確さ

正確な情報を踏まえ合理的な判断を行う

 

④修正可能性

一度決まった評価に対して、決定を修正したり覆したりする機会を設ける(不服申し立てを認める)

 

⑤代表性

関係者皆の価値観や見解を反映しているか

 

⑥倫理性 

基本的な道徳観を満たしているか

 

例えば、評価をする際に上司間で偏りが出ないように話し合いを行う、一度決まった評価に対して反論する機会を設けるなど、評価をする際のプロセスを明確に・慎重に行うことが大切です。

 人事評価制度に不満を持つ理由の「評価基準が不明確・評価者の付け方に納得感がない」という項目が大多数を占めているのも、評価をとる時のプロセスが明確にされていない、つまり手続き的な公正さが担保されていないことが原因と考えられます。

 ただ言い換えると、この①から⑥の手続きを満たすことによって、分配はどうであれ公正感を満たすことに繋がるので、企業の努力次第で不満の声を軽減することは可能ということになります。

4.不満をなくすために人事担当者や管理職が押さえるべき2つのポイント

最後に納得感が得られる人事評価をするために、人事担当者や管理職はどのようなアプローチをすることが重要になってくるのかをご紹介します。

 

・ハード面〜公平感を担保した人事制度を作る〜

・ソフト面〜マネージャーのフィードバックスキルを高める〜

4-1. ハード面〜公平感を担保した人事制度を作る〜

先ほどは評価をする際のプロセスを明確にするという「手続き的公平さ」を高めることによって、社員の納得感を高めることができるとお伝えしました。

 不満の声を軽減させるためには、「評価をする際に上司間で偏りが出ないように話し合いを行う」「一度決まった評価に対して反論する機会を設ける」など、手続き的な公正理論を元に、人事制度を設計していくことが重要です。

4-2. ソフト面〜マネージャーのフィードバックスキルを高める〜

人事評価の仕組みを理解してもらった後には、上司から「なぜこの評価にしたのか」という評価のプロセスの部分を伝えるステップが必要です。その結果、手続き的な公正さを高めることに繋がります。

 

また、もう一つ評価には重要な役割があるのです。それは「評価」という手段を通して上司とメンバーの間で仕事の方針や目線合わせを行うということです。評価軸があることで改善点の明示ができますし、自立行動の促進にも繋がります。ここからも、フィードバックの重要性をご理解いただけたのではないかと思います。

そこでフィードバック面談をする時のポイントを5つご紹介します。

 

①結果と理由を同時に確認できるようにする

なぜこのような評価をつけたのか、それに関わる報酬もきちんと理由をつけて説明する必要があります。その際根拠までしっかり確認し、相手が納得できるよう工夫して伝えることが肝心です。

 

②事実ベースで説明できるようにする

事実ベースで説明することで、評価される側の納得感を高められますし、事実の誤認・見落とし・思い違いを防ぐことが可能になります。

根拠となる具体的事実をしっかり把握し、評価される側が発揮した能力と、それに伴う成果について、どのように関係しているかまで押さえておくと良いでしょう。

 

③ネガティブなフィードバックの伝え方を工夫する

ネガティブフィードバックを行う際には「改善のため」が目的であることを認識してもらうことが大切です。指摘する内容に対し、具体的な改善策から、改善をすることで本人にどんなメリットがもたらされるかまで提示していくことで、評価される側のフィードバックの受け止め方が変わるはずです。

 また、ネガティブなフィードバックから始めると耳を塞ぎたくなり、その後の話に耳を傾けてくれない恐れもあります。そのため先に褒めるべきポイントを伝えた後に、改善点や課題を伝えると良いでしょう。

 

④メンバーと一緒に今後のキャリアビジョンを描く

評価をして事実を淡々と述べても、メンバーのモチベーションを高めることはできません。

評価軸やシートを見ながら今後のキャリアステップを提示し、将来のキャリアビジョンを一緒に描き、評価される側の意欲を高めましょう。

 

⑤ゆったりと向き合える場所と時間を確保する

フィードバック面談とは、「自分自身を評価されるセンシティブなもの」であることを意識することが大切です。

少なくとも30分から1時間ほど時間をとり、リラックスして話せるよう、音の漏れない会議室などを用意しましょう。

 

このようにフィードバック面談は、評価される側の納得感の向上、上司とメンバーの目線合わせの場として有効活用できる機会となります。

この5つのポイントを参考にして面談を実施していただければと思います。

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は不満の声が出ても人事評価が必要な理由について、そして公正さの研究を通して、手続き的公正さを高めた人事制度の設計の重要性や、上司からメンバーに対してフィードバックの仕方を工夫することの大切さをお伝えしました。

 

ぜひ皆さんも、今回の内容を踏まえて「社員が納得感を育むことのできる人事評価の運用はどうあるべきか」と考える機会にしていただけたら幸いです。

参考資料

「6割以上が勤務先の人事評価制度に不満、約8割が評価制度を見直す必要性を感じている」アデコグループ

https://www.adeccogroup.jp/pressroom/2018/0618

 

余合淳(2016)「組織的公正理論の課題と理論的展望―公正な人事管理に向けて―」

岡山大学経済学会雑誌 47(2)p.187 〜 203

http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54151/20160528123929259945/oer_047_2_187_203.pdf

 

人事と採用のセオリー ソシム 曽和利光

https://www.amazon.co.jp/%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E3%81%A8%E6%8E%A1%E7%94%A8%E3%81%AE%E3%82%BB%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%BC-%E6%88%90%E9%95%B7%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AB%E5%85%B1%E9%80%9A%E3%81%99%E3%82%8B%E7%B5%84%E7%B9%94%E9%81%8B%E5%96%B6%E3%81%AE%E5%8E%9F%E7%90%86%E3%81%A8%E5%8E%9F%E5%89%87-%E6%9B%BD%E5%92%8C-%E5%88%A9%E5%85%89/dp/4802611714

 

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曽和利光

曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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