人事制度を考える際に重要な2つのポイント

 経営者や人事の責任者の方々の中には、現状の人事制度の変更を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。 「導入している人事制度が時代に即していない様な気がする」、「良いと思って導入したが、どうにもうまくいっている気がしない」、「従業員の納得感が薄いような気がする」などなど、様々なご状況があると思います。

 今回は、人事制度を考え上、一番最初に検討すべき、核となるポイントをお伝えします。今回お伝えする観点は、人事制度を考えるにあたり、抜け漏れていることが多いので、是非この機会にご参考ください。

1.人事における6つの役割

 そもそも人事の役割というものは何があるかご存じでしょうか。 

人事の機能には一般的に「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」の6つに分けられます。

 

■採用

企業外部に必要な人材を求めて、社内に採り入れる活動

■育成

企業内部の人材を業務で必要な特性を持つ人材に変化させる活動

■配置(配属)

企業内部の人材を、社内の業務やポジションとマッチングする活動

■評価

ミッションや目標、行動、成果の達成度に基づき人材価値を評定する活動

■報酬

一定期間の評価に基づき、人材に配分する価値(≒利益)を決める活動

■代謝

採用とは逆に、内部にいる人材に外部に退出してもらう活動

 

これらの内、企業外部に必要な人材を求めて、社内に採り入れる採用と、企業内部の人材を業務で必要な特性を持つ人材に変化させる育成は、まとめて「調達」と呼ばれることもあります。

また、報酬は基本的に、企業全体の「利益≒金銭的価値」の配分を指しますが、肩書や称号といった非金銭的、認知的な価値の配分も担っております。

2.ポイント① 人事制度は一貫性が重要

 人事がこれら6つの機能を担う上で重要となるのが、「人事の一貫性」です。 では、一貫性の軸はどこに置けばいいのでしょうか。 理想はもちろん事業です。アメリカの経営史学者であるアルフレッド・チャンドラーの「組織は戦略に従う」という言葉の通り、事業戦略が最もうまく遂行できるように一貫性の軸を置くのです。

 例えば、市場が成長している際には、商品ラインごとの営業組織を構築し、個々の業務を極力シンプルにすることで、営業効率を最大化し、市場シェアの確保に努めます。市場が鈍化してきたら、商品を横断的に扱う営業組織に変更し、顧客のあらゆるニーズにも対応できるようにして、ニーズの取りこぼしを最小化にします。

 採用においても同様のことが言えるでしょう。市場拡大期には、新卒採用を重視して、素直でフットワークが軽い人材を沢山採用して、市場成熟期には変化に対応するため中途採用重視で、自社にないスキルや経験を持つ即戦力人材を採用するなどのように、事業の状況に応じて採用戦略を変化させる必要があるでしょう。

 下記に、人事の一貫性の軸を決める上で考慮すべきポイントを示しておきます。一貫性の軸を考える上では、いずれかに分類すると分かりやすいでしょう。みなさんの会社がどちらに当てはまるかを考えた上で人事の方針を立てるといいでしょう。

 

■安定・成熟事業型

・事業の勝ちパターンが決まっている

・顧客ニーズ重視(マーケットイン)

・改善、調和、効率が重要価値観

・ポテンシャル人材を採用して育成

・社内スキル教育/ゼネラリスト

・チームプレイ/トップダウン文化

・報酬は社内価値で決定

・運命共同体/一体感重視

 

■変革・新規事業型

・事業の勝ちパターンを模索中

・新価値創造(プロダクトアウト)

・変革、競争、新規が重要価値観

・即戦力人材をオンデマンドで採用

・汎用スキル教育/スペシャリスト

・個人プレイ/ボトムアップ文化

・報酬は市場価値で決定

・契約関係/自立性重視

3.バラバラな人事制度だとどうなるのか

ここまでで、人事には一貫性が重要であるとお伝えしました。

では、人事に一貫性がないとどうなるのでしょうか。 一貫性がないと、各機能がバラバラに最適化してしまい、全体として効果を打ち消し合って、パフォーマンスが上がらないという結果に陥ってしまいます。

 現在、日本の多くの企業では、人事部が機能別の縦割組織になっているが故に、人事に一貫性がありません。 

 一番分かりやすい例は、採用と育成でしょう。この二つの担当部署は、多くの企業で分かれていること多く、対立していることも多いようです。 採用した人材が入社後に成果をあげられないことに対して、採用担当者は「育成担当がきちんと面倒を見ていない!」と考えます。 一方で、育成担当は「採用担当が良い人材を採用していない」と考えるからです(身に覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか…)。

 このような事態にならない為にも全ての人事責任者、担当者が人事の一貫性をしっかりと念頭に置いておく必要があるのです。

 下記に、人事に一貫性がない例を記しておきます。

■一貫性がない例①

・採用方針:ポテンシャル重視で中途よりも新卒の比率を高く設定している

・育成方針:育成にパワーやコストをかけず、自力で這い上がってきた人材だけを選抜している

・矛盾点:採用した原石を磨くために一定のコストをかけて育成しなければ、ポテンシャル採用の効果を活かせない。そうできないのであれば、即戦略採用の方が一貫性がある

 

■一貫性がない例②

・採用方針:スキルよりもパーソナリティを重視して採用している

・配置方針:スキルのみで組み合わせを図っている

・矛盾点:スキル最適よりもパーソナリティ最適でチームを構成した方が成果は上がる。実際に性格や相性を重視した組み合わせの方が成果は上がるという研究結果もある。

■一貫性がない例③

・採用方針:大器晩成の人材を多く採用している

・評価、報酬方針:短期の成果で判断して、長期間にわたる継続的貢献度などが考慮されていない

・矛盾点:初期に成果の上がらない人材が、評価、報酬の低さでモチベーションを低下させ、退職する。 

4.事業環境は変化が激しい

 人事の一貫性は重要なのですが、実現は容易ではありません。 その一つの要因が、近年の事業環境、いわゆる経済状況などのマクロ環境、競合企業や消費動向などのミクロ環境の激しい変化です。 これは最近では「VUCA」という言葉で表現されることが多いです(「Volatility:変動」「Uncertainty:不確実」「Complexity:複雑」「Ambiguity:曖昧」)。

 事業環境が変われば、求められる事業戦略も変わりうるでしょう。そして、その事業戦略に合わせて組織の在り方も変化させる必要が出てくるのです。

 しかし、難しいのは、組織には「慣性」が存在する為、変化が容易ではないということです。

例えばですが、事業環境の変化により求められる人材像が変わったとしても、組織の構成員を全員入れ替えることはなかなか難しいでしょう。また、事業戦略に合わせた組織を構築している最中で、当の事業戦略が変われば、人事の一貫性を保つことは難しくなります。

5.ポイント② 容易に変わらないものに重きをおく

 それでは、人事の一貫性の軸はどこに置くべきなのでしょうか。一概には言えませんが、我々は自社の「容易に変わらないもの」を軸とすることをお勧めしています。

 ある会社では、カリスマ経営者の価値観や考え方になるかもしれません。あるいは、価値観や企業の風土、事業モデルなども考えられます。 こうした不変的なものに合わせて人事の方針を立てて、その一貫性を損なわないように事業戦略を合わせるといいでしょう。

 人事方針を立てるにあたり、自社にとって容易に変わらないとは何か?を徹底的に考え、議論する必要があります。それを認識することで、はじめて人事の一貫性を継続的に実現でき、最終的には強い組織を構築できるのです。

 

■容易に変わらないものの例

・事業戦略

・社会的な使命やビジョン

・経営者の価値観や考え方

・組織文化

・従業員の特性

 

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は人事制度を考えるにあたって根本的に重要なポイントについてお話しました。 人事制度を考える際はついつい個別で考えてしまい、結果的に個別最適化が図られてしまうことが多く見受けられます。しかし、それだと一貫性が担保されず、バラバラな施策になってしまい、上述した様に人事の方針に矛盾が生まれてしまいます。

 そういった事態を防ぐためにも、一度時間を設けて、「人事の一貫性の軸」や「自社にとって変わらないものとは何か」についてじっくりと議論して頂ければと思います。

参考文献

曽和利光 著「人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則」

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曽和利光

【経歴】 株式会社 人材研究所代表取締役社長。 1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。 株式会社リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。 「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。 2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。 企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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